タイトル | 緩効性肥料による水田からの窒素流出負荷低減効果 |
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担当機関 | (国)農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境変動研究センター |
研究期間 | 2018~2019 |
研究担当者 |
箭田佐衣子 江口定夫 林暁嵐 朝田景 蓮川博之 武久邦彦 |
発行年度 | 2020 |
要約 | 水田への緩効性肥料の窒素施用量を慣行の速効性肥料より約3割減肥し、全量基肥や側条施肥により施用することで、収量を維持したまま、作付け期間中の水田からの窒素流出負荷を約3割削減できる。これにより、窒素の流入負荷よりも流出負荷が少ない窒素浄化型の水稲栽培が可能となる。 |
キーワード | 減肥、側条施肥、全量基肥、追肥、差引排出負荷量 |
背景・ねらい | 水稲の生育に応じた窒素要求の変化に合わせて窒素を供給できる肥効調節型の緩効性肥料は、従来の速効性の化学肥料より施肥効率が高く、水田からの窒素流出低減効果が期待される。その効果を実証するため、これまで全国各地で実証試験が行われてきたが、その知見はこれまで十分に整理されておらず、緩効性肥料による窒素流出負荷低減効果を統合的かつ定量的に示すことが出来ていない。そこで、本研究では、国内の水田における窒素収支と窒素流出負荷量が実測された1970年以降の文献データ(26文献、合計117データ)を収集・データベース(DB)化すると共に、慣行の速効性の化学肥料を用いた試験区(対照区)と緩効性肥料を用いた試験区(緩効区)がセットで調査されたデータのみを抜粋してメタ解析を行い、緩効性肥料による水田からの窒素流出負荷低減効果を評価する。 |
成果の内容・特徴 | 1.作成したDB内の全データについて、窒素の流出負荷NWout(表面・暗渠排水+地下浸透)と流入負荷NWin(用水+降水)の関係を見ると(図1)、対照区は、1:1ラインより上にプロットされ(NWout/NWin比>1)、差引排出負荷(NWout-NWin)がプラスとなる「汚濁型」、緩効区は、1:1ラインより下にプロットされ(NWout/NWin比<1)、差引排出負荷(NWout-NWin)がマイナスとなる「浄化型」が多い。また、側条施肥や全量基肥の試験条件では、緩効区は本DB内の全てのケースで「浄化型」となるが、多頻度の追肥や無代かき栽培条件では、緩効区でも「汚濁型」になるケースがある。 2.対照区と緩効区がセットで調査された事例(8文献、合計47データ)のみを抜粋し(表1)、NWout/NWin比について、対照区に対する緩効区のリスク比をメタ解析すると(図2)、緩効区のNWout/NWin比は、対照区よりも有意に低く、その差は0.38である(メタ解析①)。 3.表1のデータセットを用いて、水稲作付け期間中の水田の窒素収支を構成する各フローの値について、対照区に対する緩効区の応答比率(RR=各試験毎の緩効区の平均値/対照区の平均値)をメタ解析すると(図3)、緩効区のNWin及び水稲の窒素吸収量は対照区とほぼ同じであり、窒素施用量及びNWoutはいずれも対照区の約7割である(メタ解析②)。 4.以上より、水田への緩効性肥料の窒素施用量を慣行(対照区)の速効性肥料より約3割減肥し、全量基肥や側条施肥によって施用することで、水稲収量を維持したまま、水田からのNWoutを約3割削減でき、NWinよりもNWoutが少ない「浄化型」の水稲栽培が可能となる。 |
成果の活用面・留意点 | 1.農林水産省・環境保全型農業直接支払交付金(第2期、令和2~6年度)における緩効性肥料による水質保全効果(地域特認)メニューの新設に至る検討過程で、本成果が活用された。 2.湖沼水質保全特別措置法の指定湖沼(11湖沼)、水質汚濁防止法(水質総量規制)の指定水域(3海域)、公共用水域の類型指定水域(41湖沼、151海域)の面源負荷削減策に活用できる。 3.水田からの窒素流出負荷の削減は、一酸化二窒素の間接排出量の削減に直接つながることから、日本の農業分野からの温室効果ガス排出削減計画の策定に活用できる。 4.本成果は、水稲作付け期間中のみに適用できる。 |
図表1 | |
研究内容 | https://www.naro.go.jp/project/results/4th_laboratory/niaes/2020/niaes20_s10.html |
カテゴリ | 肥料 栽培条件 水田 水稲 施肥 データベース |