津波に “ねばり” 強い海岸林の再生に必要な生育基盤の整備

タイトル 津波に “ねばり” 強い海岸林の再生に必要な生育基盤の整備
担当機関 (国)森林総合研究所
研究期間 ----
研究担当者 小野 賢二
野口 宏典
発行年度 2020
要約 東日本大震災の津波で被災した海岸林の再生に向けて、従来の防災機能に加えて津波の減災機能も発揮させるためには、地中深くまで植栽木の “根張り” を発達させることが重要です。そのため、厚い有効土層を持つ生育基盤(盛土)を造り、そこにクロマツ等の苗を植栽する例が増えています。しかし、初期に造られた生育基盤では、重機の踏圧で土が固くなり、透水性や通気性が低下する等、植栽木の生育への影響が懸念される場面がみられました。そこで、東北各地の生育基盤を調査した結果を踏まえて、「植栽前の基盤の除礫工」や「植栽面に重機を載せない盛土工」等、植栽木が深い “根張り”を形成するために必要な生育基盤の整備方法を示しました
背景・ねらい  津波で被災した海岸林の再生は、沿岸域の防災機能を担う「多重防御の一翼」という観点から、津波の減災機能も伴うように進められています。具体的には、地盤を嵩上げ(かさあげ)するために盛土し、その厚い土層により植栽木の根が健全に、且つ地中深くまで伸びられるような生育基盤を整備しています。ところが、事業初期に整備された生育基盤の中には、海岸林造成時の重機の踏圧で土壌の透水性や通気性等が低下し、植栽木の活着や生育への影響が懸念され、根系の発達も不十分な例が多く観察されました。本研究では、植栽したクロマツ苗木の十分な “根張り” が期待できる生育基盤の整備のために、生育基盤の土壌物理特性にかかる要因を調査、整理し、適切な基盤整備に必要な留意点を検討しました。
成果の内容・特徴 ■事業初期に造られた生育基盤 
海岸林造成工事における生育基盤は、地盤状況に応じて、土壌の採取、運搬、盛土、敷き均し等の手順で造られます(図1a)。工期を短くするために、ダンプやバックホー等の重機を用いるのが一般的です。こうした重機で造られた生育基盤は、土壌が固くなって、透水性や通気性が低下する等、植栽木の生育にはあまり良くない土壌となりやすいことが指摘されてきました。現在、東北の太平洋沿岸部で進められている海岸林再生の工事でも事業初期の施工地で、こうした土壌物理特性(土層内への面的な硬盤形成や地表や土層内への水の停滞等:図2)を示す生育基盤があることが、本研究の調査によって明らかとなりました。これらを改良するには、排水溝の設置や耕起等の土壌改良工を行う必要があります。
■適切な生育基盤を造るために必要なこと 通常の土木工事では、盛土工は沈下を防止するため、締め固めるのが一般的でした。しかし、事業初期の事例を教訓に、国や自治体の担当者や工事施工者は工夫を重ね、「締め固めない盛土工」を試行錯誤で実施した結果、良好な施工事例も増えてきました。例えば、岩手県陸前高田市高田松原の事業地では、県の品質管理規格値をクリアするため、通常の作業手順(図1a)に加えて「樹木植栽前の基盤の除礫工」(図1b、図3)を実施しました。これにより、重機走行により形成された硬盤は破砕され、固結層が基盤内から消滅したこと、それによって植栽後3年のマツの根は最大で1.7mの深さまで侵入したことが本研究の調査から明らかになりました(図4)。同様に、岩手県野田村前浜では、盛土材の搬入から整地までの過程で、植栽面に重機を載せずに、生育基盤を整備する「土を盛ったら植栽面に重機を載せない盛土工」を行ったところ、盛土した基盤全層が柔軟に盛られたことで、根の到達深も1m超に達していました。 以上のことから、「樹木植栽前の基盤の除礫工」や「植栽面に重機を載せない盛土工」等で根系の発達環境に留意することが、適正な生育基盤を整備する上で重要なことが分かりました。
■研究資金と課題 
本研究は、森林総合研究所交付金プロジェクト「根系成長確保による高い津波耐性を特長とする盛土を伴う海岸林造成の技術的指針の策定」による成果です。
■文献
Ono, K. and Imaya, A. (2019) Soils on newly-constructed coastal berms for reforestation of coastal forests damaged by the 2011 mega-tsunami. International Perspectives in Geography (AJG library 9). Anthropogenic Soils in Japan, 59-85. 小野賢二(他)(2020) 人工生育基盤を巡るこれまでの状況と課題-津波被災海岸防災林再生の現場から-. 森林技術, 936, 10-13.
■専門用語有効土層:植物の根が支障なく伸張することができる土層のこと。除礫工:篩状のバケットを装着したバックホーで土を篩って石礫を取り除きながら、生育基盤中の硬盤層を破砕する作業のこと。土層の中に大きな石や礫が多く混ざっていたり、重機の踏圧で形成された硬い土層が残っていたりすると、樹木を植栽する時に支障を来す上に、その後の樹木の生育、活着への影響が懸念されるので、実施する。SH型貫入試験機:植物の生育基盤としての土壌が、植物の根にとって良好な土壌硬度であるか否かを判定できるよう開発された試験機。一般に、土壌硬度を表す値として軟らか度(cm/1打撃)がある。軟らか度とは、この試験機で3kgのおもりを50cmの高さから1回落下させたときの、試験機先端の直径2.5cmの貫入コーンの土壌中への貫入量(cm/1打撃)で表され、値が大きいほど土が軟らかく、逆に値が小さいと土が硬いことを示す。
図表1 244833-1.png
図表2 244833-2.png
図表3 244833-3.png
図表4 244833-4.png
研究内容 https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2020/documents/p4-5.pdf
カテゴリ 土壌改良

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