タイトル | 樹冠の状態によって変わる森林の中で雨の降り方をレーザーセンサで解明 |
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担当機関 | (国)森林総合研究所 |
研究期間 | ---- |
研究担当者 |
南光 一樹 飯田 真一 Delphis F. Levia 堀田 紀文 田中 延亮 鈴木 雅一 篠原 慶規 尼崎 博正 山田 耕三 酒井 直樹 Thomas W. Giambelluca Ryan G. Mudd Michael A. Nullet Xinchao Sun Chatchai Tantasirin |
発行年度 | 2020 |
要約 | 森林の樹冠は、森林の中の雨の降り方を変え、地表での土砂移動や地中への水の浸透を変化させます。本研究では、森林の中と外とで同時にレーザーセンサで計測した雨滴データを活用して、森林の中で降る雨の種類を分ける手法を開発しました。3カ国、12樹種で測定した世界最多の森林の中の雨滴データを解析し、針葉樹と広葉樹、葉の有無、樹冠の濡れ具合による森林の中の雨の降り方の違いを明らかにしました。概ね、針葉樹に比べて広葉樹の方が、森林の中で降る雨の中に大粒な雨滴の割合が多く、サイズも大きいことがわかりました。この成果は施業による樹冠の変化が水源かん養機能や表土保持機能に与える影響を予測する上で重要な知見になります。 |
背景・ねらい | 森林の中と外では雨の降り方が変わります。森林に降った雨は樹冠を濡らし、その大半(50~80%)は樹冠通過雨として地面に降り注ぎ地中に浸透していきます。樹冠通過雨は、葉や枝に触れずにそのまま落ちる「直達雨」、葉や枝に溜まった後に大粒となって落ちる「滴下雨」、葉や枝で弾けて砕けて小粒となって落ちる「飛沫雨」の3つからできています(図1)。従来、バケツなどの容器や雨量計を設置して樹冠通過雨の総量を測定しますが、それぞれの種類がどれくらいの割合で存在しているのかは不明なままでした。 |
成果の内容・特徴 | ■森林の中の雨の種類を雨滴データから推定する そこで、樹冠通過雨の3種類の雨滴の大きさが違うことに着目し、森林の中と外で同時に測定した雨滴データを使って樹冠通過雨の種類を分ける手法を開発しました(図1)。日本、アメリカ、タイの3カ国における12樹種で測定した、世界最多の樹冠通過雨の雨滴データを解析に用いました。その結果、(1)葉のついた樹木では、樹冠通過雨の半分以上が滴下雨でできていること、(2)葉のついた樹木では、広葉樹のほうが針葉樹よりも滴下雨の割合が大きく、雨滴サイズも大きいこと、(3)葉が落ちた樹木では、樹冠通過雨の半分以上が直達雨でできているが、飛沫雨や滴下雨も含まれることを明らかにしました。 また、葉と枝とで濡れ方や滴下雨の生まれ方が違うこともわかりました。葉のついた針葉樹では、濡れが進むほどに雨の滴下点が増えていくため、滴下雨が増えていきます(図2左)。一方で、葉が落ちた広葉樹では、濡れが進むにつれて枝の半ばで滴下していた水滴が、滴下せずに枝の下方に流れていくようになり、滴下点の数が減り、滴下雨が減りました(図2右)。そして葉のついた広葉樹では、その双方の特徴を持ち合わせていました。このように葉の量や枝の配置によって樹冠通過雨の生まれ方が変わることがわかりました。 ■森林管理による樹冠の状態の変化が森林の中の水と土の動きをどう変えるのか これらの結果は、針葉樹と広葉樹とで、樹冠通過後の雨の様相が異なることを意味しています。大きな粒の雨がどれくらい降るかにより、落ち葉の分解されやすさ、土壌の侵食されやすさ、雨水の浸透しやすさが変わってきます。この手法を活用して針葉樹と広葉樹の間で森林の中の水の動きの違いを明らかにし、水源かん養機能や表土保持機能をよりよく発揮するための森林管理技術の開発に役立てていきます。 ■研究資金と課題 本研究はJSPS科研費「雨滴の多点観測を活用した樹木の濡れ乾きの3次元物理シミュレーション」(JP15H05626)、「雨は樹木の垂直構造をどう旅して地面に達するのか?化学分析を活用した物理モデル開発」(JP17KK0159)、JSPS外国人招へい研究者(S16088)「自然降雨と人工降雨を用いた樹冠の降雨再分配プロセスの解明」、日本林業技術協会学術研究奨励事業「森林内における雨滴粒径分布の特性とその形成機構の解明」、JST/CREST「熱帯モンスーンアジアにおける降水変動が熱帯林の水循環・生態系に与える影 響」、US Fish and Wildlife Service 「Hydrological Impacts of Miconia calvescens in Hawai`i」の 助 成を受けました。本研究は、令和元年度(第15回)「若手農林水産研究者表彰」農林水産技術会議会長賞「林相の違いに由来する林内の雨・土砂動態に関する研究」の一部となりました。 ■文献 Levia, D. F. and Nanko, K. et al. (2019) Throughfall partitioning by trees. Hydrol. Process., 33, 1698-1708.(※共同主著)南光一樹 (2020) 雨滴測定に基づいた森林内の雨と土砂の動きの解明. JATAFFジャーナル, 8, 12-13. |
図表1 | |
図表2 | |
研究内容 | https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2020/documents/p6-7.pdf |
カテゴリ | 管理技術 |