タイトル | 圃場におけるダイズの光合成パラメータの温度順化とハイパースペクトル反射率による推定 |
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担当機関 | (国)農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境研究部門 |
研究期間 | 2018~2021 |
研究担当者 |
熊谷悦史 Charles Burroughs Taylor Pederson Christopher Montes Bin Peng Hyungsuk Kimm Kaiyu Guan Lisa Ainsworth Carl Bernacchi |
発行年度 | 2021 |
要約 | 圃場における開放系温暖化実験により観察されるダイズ個葉の光合成パラメータの温度順化は、可視・赤外波長域のハイパースペクトル反射率と回帰学習器を組み合わせることにより、高速にかつ精度よく推定できる。 |
キーワード | 回帰学習器、開放系温暖化実験、気候変動、光合成モデル、ハイパースペクトル反射率 |
背景・ねらい | 温暖化が作物生産に及ぼす影響を予測するためには、生育温度に対する光合成速度の長期的な反応(温度順化)を正確に表現する必要がある。Farquhar et al.のモデル(1980)は、環境に対する光合成速度の反応を表現するのに広く利用されている。その主要なパラメータである最大炭酸固定速度(Vcmax)と最大電子伝達速度(Jmax)の温度順化はこれまでに限られた温度域で調査されている。しかしながら、パラメータを取得するのに多くの時間が必要となるので、広範囲な温度条件や生育ステージでの変化はよくわかっていない。 個葉における可視・赤外波長領域のハイパースペクトル反射率は光合成色素等の生理情報を含み、かつ迅速に取得できるので、光合成速度の高速推定に利用できると期待されている。そこで、本研究では、開放系温暖化実験により広範囲な温度条件でダイズを栽培し光合成パラメータの変化を観察するとともに、それらをハイパースペクトル反射率によって推定できるかどうかを明らかにする。 |
成果の内容・特徴 | 1. 圃場における開放系温暖化実験で、5段階の群落温度条件(通常群落温度の対照区、対照区+1.5°C、+3°C、+4.5°C、+6°C)でダイズを栽培し(図1a)、2年間の栽培シーズンの異なる生育ステージにおいて測定した光合成速度からVcmaxとJmaxを算出する(図1b)。同時に、可視・赤外波長領域のハイパースペクトル反射率を測定する(図1c)。ハイパースペクトル反射率は500-2400nmの波長範囲を1nm間隔で取得する(図1d)。 2. 光合成パラメータの温度順化の程度や方向性は栽培シーズンや生育ステージで異なる。Vcmaxは、子実肥大始期においてのみ、群落温度の上昇に伴う増加が見られる(図2a、c)。Jmaxは、着莢始期や子実肥大始期において、群落温度の上昇に伴う減少が見られる(図2b、d)。 3. 上記で取得したデータセットを使い、500-2400nmの1901波長別の反射率を説明変数として、VcmaxとJmaxを目的変数とする回帰学習モデル(部分最小二乗回帰、リッジ回帰、サポートベクター回帰、ラッソ回帰)を構築し、未知データに対する推定力を検証すると、Vcmax(Jmax)の決定係数は0.56-0.65(0.48-0.58)、推定誤差が9.5-10.6(8.4-9.1)%となり良好な精度を示す(図3、4)。波長選択の特徴を有するラッソ回帰は他の学習器と比較して推定力がやや劣る。 4. 従来の光合成速度の計測によるVcmaxとJmaxの取得には1枚の葉当たり30分以上の時間を要するのに対し、反射率の計測は数十秒間で完了できる。構築した回帰学習モデルにより、光合成パラメータの取得を高速化できる。 |
成果の活用面・留意点 | 1. 開放系温暖化実験における群落温度上昇により、光合成速度の低下が観察される(発表論文2)。これには光合成パラメータの温度順化が部分的に関与していると考えられる。 2. 作物モデルや陸面過程モデル(地表面と大気との間の炭素、水などの輸送を表すモデル)では、生育ステージを通じて光合成パラメータを一定とする場合がある。ここで構築した回帰学習モデルにより、高時間分解能でパラメータを得ることができ、モデルの予測精度向上が期待できる。 |
図表1 | ![]() |
研究内容 | https://www.naro.go.jp/project/results/5th_laboratory/niaes/2021/niaes21_s08.html |
カテゴリ | 大豆 輸送 |