物理モデルによる仮想データを深層学習に用いる、排水機場調整池の高精度水位予測手法

タイトル 物理モデルによる仮想データを深層学習に用いる、排水機場調整池の高精度水位予測手法
担当機関 (国)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究部門
研究期間 2019~2021
研究担当者 木村延明
皆川裕樹
福重雄大
木村匡臣
馬場大地
発行年度 2021
要約 排水機場調整池の深層学習モデルによる水位予測について、物理モデルで生成した大量の仮想データと観測データを用いて転移学習を行うことによりモデルの最適化を行う手法である。これにより未経験の豪雨による大規模洪水イベントでも水位予測の精度を高めることが可能になる。
キーワード 深層学習モデル、物理モデル、転移学習、排水機場水位予測、大規模洪水
背景・ねらい 近年の豪雨の激甚化に伴い、困難さを増している水利施設の操作を支援するため、AIを用いて河川や排水路の水位を予測する試みが進められている。このようなAIによる水位予測には深層学習が用いられるが、深層学習は観測データに含まれない大規模な降雨の予測が困難であることが課題となっている。さらに、気候変動の影響で低平地の排水管理においても、大規模な豪雨イベントの発生が増加することが予想される。そこで、物理法則に基づく水理解析(内水氾濫解析)で生成される大規模洪水の仮想水位データで事前学習させた上で、観測データを用いてモデルの一部を再学習させることで、観測データに大規模洪水データが含まれない場合でも、大規模洪水時を含む長期的な水位予測を可能にする。
成果の内容・特徴 1. 提案する水位予測では、まず、対象地区の特性を考慮し統計的手法を用いて仮想的に生成した降雨を入力データにして、対象地区で精度検証済みの物理モデルを用いる内水氾濫解析を行い、大量の仮想水位データを出力する。次に、この大量の仮想データを用いて深層学習モデルで事前学習させる。さらに、事前学習で得られたパラメータを再利用した深層学習モデルに観測値を入力データとし再学習することで、観測値の特徴を反映させた水位予測結果を出力する (図1)。
2. 深層学習モデルは、時間予測に利用されるAIアルゴリズムである長・短期記憶(LSTM)とLSTMからのデータを統合する全結合層で構成される(図2a)。LSTMは時系列データを学習させることに適したアルゴリズムである。転移学習は、仮想データを学習し、深層学習モデルのLSTMと全結合層の内部パラメータを最適化する事前学習と観測値の特徴を反映させるために全結合層のパラメータを調整する再学習で構成される(図2b)。なお、転移学習を適用しない場合を転移学習なしとする(図2a)。
3. 対象地区における約10カ月間の水位変化を転移学習により予測し、転移学習がない場合と比較する(図3)。転移学習で用いる仮想水位データは、大規模洪水イベント(約50年確率に相当)を想定した1,000ケースの内水氾濫解析から得ることとし、観測値には常時排水も含まれる。1時間後の予測結果について、転移学習ありの場合は、転移学習なしの場合より洪水時の水位ピークを良く再現でき、二乗平均平方根誤差を用いた定量的な評価から、約7%の改善が可能になる。なお、常時排水の期間では、転移学習の有無にかかわらず同程度の予測精度である。
成果の活用面・留意点 1. 未経験の大規模洪水は仮想水位データにより学習できるが、常時排水など日常的な事象の水位データは観測値が10万点程度必要となる。
2. 水位予測精度は1時間後までの妥当性を確認している。
3. 水位予測精度の改善具合は、地域特性や確率雨量による豪雨個数によって影響を受ける場合がある。
4. 本手法による予測精度は、仮想データ生成のための物理モデルの精度にも依存する。
図表1 249105-1.png
研究内容 https://www.naro.go.jp/project/results/5th_laboratory/nire/2021/nire21_s09.html
カテゴリ 水管理

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