タイトル | 日本に飛来したトビイロウンカ個体群におけるイネ判別品種に対する加害性 |
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担当機関 | (国)農業・食品産業技術総合研究機構 植物防疫研究部門 |
研究期間 | 2002~2020 |
研究担当者 |
藤井智久 真田幸代 松村正哉 小林徹也 安井秀 |
発行年度 | 2021 |
要約 | 海外から日本に飛来するトビイロウンカは、単一のトビイロウンカ抵抗性遺伝子を導入した品種Mudgo、IR26、ASD7に対する加害性は強いが、複数のトビイロウンカ抵抗性遺伝子を導入した品種Rathu HeenatiとBalamaweeに対する加害性は弱い。 |
キーワード | トビイロウンカ抵抗性遺伝子、品種加害性、抵抗性崩壊現象、水稲 |
背景・ねらい | 近年トビイロウンカによる水稲への被害が顕在化しており、トビイロウンカの吸汁を抑制する働きを持つトビイロウンカ抵抗性遺伝子(BPH)を導入した水稲品種の育成と利用が進められている。しかし、抵抗性遺伝子を導入した品種においてもトビイロウンカが加害性を獲得する例も多数知られていることから、新規のトビイロウンカ抵抗性品種の育成に向け、抵抗性を持続させる技術の開発が求められる。そこで、トビイロウンカ抵抗性遺伝子を導入したイネ判別品種に対する加害の有無の指標となる放飼後5日目のトビイロウンカの生存率および腹部肥大率を用いて、海外から日本(九州地方)に飛来したトビイロウンカにおけるイネ判別品種への加害性の長期的な動向を明らかにし、トビイロウンカに対して安定した抵抗性を示す品種育成戦略の策定に貢献する。 |
成果の内容・特徴 | 1. 2001~2019年に日本に飛来したトビイロウンカのイネ判別品種IR26(BPH1)、Mudgo(BPH1)、ASD7(BPH2)における生存率および腹部肥大率は概ね70~90%であり、感受性品種(TN1とT65)との間に明確な差はない(図1、2)。このことから、抵抗性遺伝子BPH1とBPH2は、それぞれ単独ではトビイロウンカの吸汁を抑制しない。 2. Rathu Heenati(BPH3、BPH17) とBalamawee(BPH27、Three QTLs)については、日本に飛来したトビイロウンカの生存率は0~60%と変動するものの、2品種に対する腹部肥大率は期間を通して0~20%の間を推移しており、感受性品種に比べて明確に低い(図1、2)。 3. 日本に飛来したトビイロウンカのIR42(BPH2)における生存率は0~70%であるが、腹部肥大率は0~10%である。IR42は、単独では抵抗性の効果がないBPH2を保有するが、完全な抵抗性崩壊は起きていない。2007年以降Babawee(BPH4)における生存率は20~70%、腹部肥大率は10~40%と変動し、抵抗性が不安定になるが完全な抵抗性崩壊は起きていない(図1、2)。よって、これらの2品種は主働遺伝子のほかにトビイロウンカ抵抗性遺伝子あるいはQTLをもつ可能性がある。 4. これらの結果から、トビイロウンカは単一の抵抗性遺伝子を持つ品種に対して加害性を獲得しやすいが、複数の抵抗性遺伝子を持つ品種に対する加害性を獲得しにくい可能性が示唆される。 |
成果の活用面・留意点 | 1. 複数のトビイロウンカ抵抗性遺伝子を導入した品種では、トビイロウンカの加害性獲得が起きにくい可能性があるため、イネの抵抗性利用を持続させることが期待できる。 2. 本成果の長期モニタリングより、トビイロウンカが加害性を獲得していないIR42とBabaweeは複数のトビイロウンカ抵抗性遺伝子またはQTLを保持している可能性があり、新たなトビイロウンカ抵抗性水稲品種の育種素材として期待できる。 |
図表1 | ![]() |
研究内容 | https://www.naro.go.jp/project/results/5th_laboratory/nipp/2021/nipp21_s01.html |
カテゴリ | 育種 水稲 抵抗性 抵抗性遺伝子 抵抗性品種 品種 モニタリング |