タイトル | 土石流を引き起こす降雨条件は谷底の土砂量に応じて変化する |
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担当機関 | (国)森林総合研究所 |
研究期間 | ---- |
研究担当者 |
經隆 悠 堀田 紀文 今泉 文寿 増井 健志 早川 裕弌 |
発行年度 | 2021 |
要約 | 土石流が発生する降雨条件の解明は、被害の軽減や早急な避難に不可欠です。土石流が渓流内の土砂 の侵食によって発生する場合、発生の目安となる降雨の条件は荒廃渓流源頭部の土砂量に応じて変化 すると考えられてきました。しかし、観測データが乏しく、その実態は明らかになっていませんでし た。本研究では土石流の観測により、荒廃渓流源頭部の土砂量が減少すると、土砂量が多い時期と比 べて、強い雨の続く期間が短くても土石流が発生することを解明しました。この結果は、土砂量の変 動をモニタリングすることで、降雨による土石流の発生リスクをより正確に判定できることを示唆し ており、今後の山間部での土石流対策において重要です。 |
成果の内容・特徴 | ■雨の強さだけでは土石流の発生を正確に予測できない 台風時の豪雨のような強い雨は、荒廃渓流源頭部の土砂を侵食して、土石流を発生させることがあります。そのため、雨の強さは土石流の発生リスクを判定する上で重要な情報のひとつです。本研究で観測を行った静岡県大谷崩一の沢では(図1)、10分間に5㎜以上の雨の強さに達した場合に、土石流が発生する危険があることが知られていました。しかし、よく調べると、この強さに達した雨でも土石流が発生しない場合があり、雨の強さだけでは土石流の発生を正確に予測することはできないことがわかりました。 ■雨の降り方に着目して土石流の発生降雨条件を解明する そこで、上記の雨の強さに達する期間の違いに着目し(図2)、雨の降り方を評価する二つの指標を開発しました。一つは、ある雨の間に10分間降雨量が5㎜以上となった期間の合計を評価する指標Aです(図2)。もう一つは、ある雨の間に、5㎜以上の10分間降雨量が続いた最長の期間を評価する指標Bです(図2)。これらを組み合わせて土石流の発生と降雨条件を比較した結果、土石流が発生した降雨では、二つの指標の値が土石流の発生しなかった降雨と比べて高いことがわかりました(図3)。この結果は、強い雨の期間が相対的に長い雨の降り方が、土石流を引き起こしやすいことを意味します。 さらに重要なのは、土石流を引き起こす雨の降り方が、土砂量の変動によって変化することです。観測を行った一の沢では、主として雨が少なく岩盤の風化が進行する冬季に、谷底に土砂が堆積します(図1a)。これらの土砂は、夏から秋に土石流として流出するため、減少していきます(図1b)。そして、翌冬の側岸の岩盤からの新たな土砂の生産と谷底への運搬が、再び土砂量を回復させます。そのため、土砂量の減少は、その年の土石流の発生回数に比例すると考えられます。2012年と2015年の最後の土石流を引き起こした降雨において、二つの指標は相対的に小さな値を示しており、土石流が発生しなかった降雨の上限値程度まで低下していました(図3)。これらの土石流は、以前の土石流が夏から秋口にかけて比較的多く発生したために、谷底の土砂量が顕著に減少した条件下で発生しました。この結果は、荒廃渓流源頭部の土砂量が減少すると、谷底の土砂が水で飽和しやすくなるため、短期間の強い雨によって土石流が発生するリスクが高まることを示唆します。 ■土石流の発生予測に向けて 土砂生産のタイミングや速度は、地質や気候などの条件に応じて異なります。さらに、火山の噴火や地震による斜面崩壊など、突発的な土砂生産が生じる可能性もあります。得られた成果は、このような多様な土砂量の変動を継続的にモニタリングすることが、土石流の予測精度の向上や被害軽減につながることを示唆します。 ■研究資金と課題 本研究はJSPS科研費(JP16J02197)「土石流の数値シミュレーションと現地観測に基づいた土砂流出量の長期推定モデルの開発」、(JP26292077)「流域土砂貯留量の変化に着目した深層崩壊の評価手法の開発」、(JP18J01961)「土石流扇状地からの土砂と流木の流出プロセスの解明と流出量推定手法の開発」による成果です。 ■文献 Tsunetaka, H. et al. (2021) Variation in rainfall patternstriggering debris flow in the initiation zone of the Ichino-sawa torrent, Ohya landslide, Japan. Geomorphology,375, 107529. |
図表1 | |
図表2 | |
図表3 | |
研究内容 | https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2021/documents/p4-5.pdf |
カテゴリ | モニタリング |