気候変動下での天然生落葉広葉樹林による炭素吸収量の将来予測

タイトル 気候変動下での天然生落葉広葉樹林による炭素吸収量の将来予測
担当機関 (国)森林総合研究所
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研究担当者 山野井 克己
溝口 康子
小野 賢二
安田 幸生
発行年度 2021
要約 気候シナリオではCO2濃度や気温の上昇とともに、台風、火災、虫害など森林被害の増加も予想され ています。気候変動の直接的な影響に加えて森林被害が増加することは、森林の炭素吸収量に影響を 与えると考えられます。そこで気候変動と森林被害の炭素吸収量への影響を明らかにするために、天 然生広葉樹林を対象にして生態系プロセスモデルを用いて炭素吸収量の将来予測を行いました。その 結果、森林の炭素吸収量は気温上昇の程度による差が小さいと予想されました。その一方で、気候変 動により増加する台風などの大規模な森林被害は、発生直後に炭素吸収量を大きく減少させ、吸収量 の回復には数十年かかることも明らかになりました。
成果の内容・特徴 ■気候変動と森林の炭素吸収量 
IPCCの第5次報告では、想定した気候シナリオごとにCO2濃度や気温の上昇が予想されています(図1、2)。さらに、気候変動に起因した台風、火災、虫害などが増加して、森林が被害を受ける頻度が高まることが予想されています。このような気候変動により、森林に期待される炭素吸収も影響を受けると考えられます。これまでも気象学や生態学の手法により、さまざまなタイプの森林の炭素吸収量が長期にわたりモニタリングされています。しかし、人工林に比べて天然生広葉樹林は未解明なことが多くあります。さらに、気候変動の影響を明らかにするには、モニタリングを行ってきた期間よりもはるかに長い将来予測が必要となります。
■観測データをもとに森林生態系をモデル化 
札幌森林気象試験地(図3:北海道札幌市羊ヶ丘)と安比森林気象試験地(図4:岩手県八幡平市安比高原)では森林の炭素吸収量の継続的なモニタリングが実施されています。札幌はシラカンバやミズナラ、安比はブナが優占する天然生落葉広葉樹林です。札幌は台風による大規模な風倒被害(2004年)を受けてたくさんの倒木が発生しました。その後も2010年に冠雪害、2014に虫害、2018年に風害などの小規模な被害が発生しています。安比は2007年に虫害が発生しましたが、枯れるまでには至らずに翌年には回復しました。札幌は被害を受けた天然林で、安比は安定して成長中の天然林ですが、20年たらずのモニタリング期間中でさえも、森林の炭素吸収量に影響をおよぼすイベントが繰り返し発生しました。森林の炭素吸収量は、年々変化する気象条件と被害の影響が重なり合ったものです。このように複雑な炭素吸収量の年々変化を、生態系プロセスモデルを用いて気象データにより再現しました(図5、6)。
■気候変動による炭素吸収量の変化を長期予測 
3つの気候シナリオ(RCP8.5、4.5、2.6)による札幌と安比の平均気温の予測データ(図2)から、生態系プロセスモデルを用いて2100年までの炭素吸収量を予測しました。気候変動により気温が上昇するほど森林による光合成量(図5a、6a)と生態系呼吸量(図5b、6b)はともに増加するものの、炭素吸収量(図5c、6c)は気温上昇の程度による差が小さいと予想されました。このことは、天然林による炭素吸収は将来も継続して、成熟した森林へと推移することを示しています。ただし、いつ発生するか予測できない台風、火災、虫害などによる大規模な森林被害が炭素吸収量の長期変化に大きく影響する(図5)ことも明らかになりました。
■研究資金と課題 
本研究は、交付金プロジェクト*「気候変動下での天然林における炭素収支の空間評価・将来予測手法の開発」による成果です。
■専門用語
気候シナリオ:IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次報告で示されたシナリオでは、政策的な緩和策を前提とした代表的濃度経路(RCP)ごとに増加するエネルギー量を指標として8.5,6.0, 4.5, 2.6の4つの経路が想定されています。数字の大きなものほど気温上昇が進むことを示し、2.6は現状維持にかなり近い想定となっています。ここではRCP 6.0を除く3つのシナリオを用いました。生態系プロセスモデル:葉、幹、根、土壌などを含む森林生態系内での炭素、窒素、水の貯留と移動をモデル化したものです。ここでは気温や降水量などの気象データから貯留量と移動量を日単位で求めることができるBiome-BGCというモデルを用いました。
森林の炭素吸収量、生態系呼吸量:森林の炭素吸収量は光合成によるCO2の吸収と樹木の呼吸や有機物の分解によるCO2の放出(生態系呼吸量)の差であらわされ、地上部と地下部を含めた森林生態系全体の吸収量を示します。「光合成量―生態系呼吸量=炭素吸収量」と炭素収支の関係を示すことができます。各要素は炭素量に換算してkgCで示しています。
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図表2 249179-2.png
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図表4 249179-4.png
図表5 249179-5.png
図表6 249179-6.png
研究内容 https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2021/documents/p12-13.pdf
カテゴリ モニタリング

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