ニホンジカは2050年までにその勢力を全国に拡大する と予測されます

タイトル ニホンジカは2050年までにその勢力を全国に拡大する と予測されます
担当機関 (国)森林総合研究所
研究期間 ----
研究担当者 飯島 勇人
永田 純子
岡 輝樹
相川 拓也
高橋 裕史
八代田 千鶴
近藤 洋史
寺田 行一
諸澤 崇裕
川本 朋慶
荒木 良太
石田 朗
釡田 淳志
狩場 晴也
発行年度 2021
要約 わが国の農林業に対する最大の加害獣ニホンジカの分布域はどんどん拡大し、近年では北陸地方や北 東北地方でも頻繁に目撃されるようになってきました。本研究では現在のシカの分布最前線を把握す る手法を開発するとともに、気候変動に伴う自然環境の予測シナリオも考慮しつつ、シカの分布を中 長期的、広域的に予測しました。 その結果、生息分布確率50%以上の地域は2025年に国土の約7割、2050年には約9割を超え、新規 植林地における苗木被害、成長した林分における剥皮被害が懸念される地域も拡大することがわかり ました。捕獲と防除を車の両輪として、対策をより一層進めていく必要があります。
成果の内容・特徴 ■分布最前線を把握し、捕獲する
ニホンジカ(エゾシカ等亜種も含む)の分布拡大とそれに伴う被害拡大を抑制するためには、分布の最前線を的確に把握し、そこで捕獲する必要があります。シカの生息が記録されていないエリアであっても、すでに分布が確認されている地域からの距離が近い場所では、自動撮影カメラを設置することによって生息が確認され、分布の最前線を把握することができました。一方シカの密度が極めて低く自動撮影カメラでは生息を確認できない場所では、食痕や糞等の痕跡に残されたDNAを分析するために開発した「ニホンジカ・カモシカ識別キット」によって、シカの生息及び分布の最前線を効率的に把握することができました。さらに、スマートフォン等携帯端末を利用して市民によるシカの目撃情報や捕獲情報を位置データとともに収集、管理、閲覧できる「シカ情報マップ」を開発して全国展開したところ、10,000件を超える情報が集まりました。捕獲事業等を実施する際、このシステムの閲覧機能を利用して場所を決めるなど、分布拡大問題に取り組む住民ネットワークも誕生しました。
■シカの分布はさらに拡大 
将来のシカの分布を予測しました。過去約35年の分布拡大過程から、ある時点にシカが分布していた地域は、それまでに分布していたエリア(基本単位約5km四方)に新たに生息し始めたエリアを加えたものであることがわかりました。新たなエリアに分布するためにはそこに生息に適した環境があるかが重要ですから、どんな要因が関わっているかを探りました。さらに、過去にシカは日本全土に生息しており、戦中戦後にかけて一度分布が非常に縮小、その時にも生息していた地域からの分布回復であるため、環境条件だけでなく、縮小したときにも分布していた場所への近さも分布確率に影響すると考えられます。そこで、過去の分布域からの距離を変数として組み込みました。この予測手法がシカの最近の拡大過程をうまく説明できることを確認し、中長期的将来予測へと発展させました。また、気候変動の影響を見るため、積雪日数など環境要因の変数については、最も気温上昇が低いシナリオであるRCP2.6と最も気温の上昇が大きいシナリオであるRCP8.5の気象予測値を用いました。そして予測の結果、RCP8.5シナリオ下のほうが拡大速度が少し早いものの、どちらのシナリオでもシカの生息分布確率が50%以上の地域は2025年に全国の約7割、2050年には9割を超えると予測され、温暖化による影響に加えてシカ個体群の強い繁殖力が分布拡大に寄与していると考えられました(図1)。さらに、分布拡大によって植栽された苗木に対する被害(図2)や、成木に対する樹皮剥ぎ被害(図3)も全国に拡大してしまうことが予測されました。
■予測を活かして 
シカの分布拡大を阻止、あるいは拡大する速度を少しでも遅くすることによって影響を最小限にとどめるためには、既存の捕獲技術による成果を正しく評価し、より効率の高い技術の創出へつなげることが不可欠です。本研究で開発した最前線把握手法、予測手法は新たな取組の効果を判定するときに役立つでしょう。
■研究資金と課題 
本研究は、農林水産省委託事業「農林水産分野における気候変動対応のための研究開発」における「野生鳥獣拡大に係る気候変動等の影響評価」による成果です。
■文献
相川拓也 (2018) ニホンジカ・カモシカ識別キット─その使い方と使用例─. 森林防疫, 67(1), 15-24.Ohashi, H. et al. (2016). Land abandonment and changesin snow cover period accelerate range expansions ofsika deer. Ecology and Evolution, 6(21), 7763-7775.岡輝樹 (2020) ニホンジカの生息情報を共有する. 山林, 1637,62-69.
■専門用語
RCP2.6及びRCP8.5:温室効果ガスの排出量を基準に分けられた、気候変動を予測する際の2つのシナリオ。数値が高いほど排出量は大きい。RCP2.6では2100年の平均気温が基準年(1986年~2005年)の平均より約2℃上昇、RCP8.5では約4℃上昇すると予測されている。
図表1 249182-1.png
図表2 249182-2.png
図表3 249182-3.png
研究内容 https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2021/documents/p18-19.pdf
カテゴリ 気候変動対策 シカ 繁殖性改善 防除

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