乾燥した生育環境への適応性を評価するスギの遺伝子発現 マーカーの開発

タイトル 乾燥した生育環境への適応性を評価するスギの遺伝子発現 マーカーの開発
担当機関 (国)森林総合研究所
研究期間 ----
研究担当者 能勢 美峰
永野 聡一郎
高島 有哉
平尾 知 士
松下 通 也
平岡 裕一郎
発行年度 2021
要約 気候変動を背景として、スギの林木育種においても、今後想定される気象条件を踏まえて品種改良を 行うことが求められています。しかし、ストレスをもたらす環境条件をつくりだして系統を評価する のには多くの手間と長い時間がかかり、省力化・効率化が必要です。そこで、乾燥に対するスギの生 理的な応答を比較的簡便に評価できる指標を開発するために、乾燥条件下での遺伝子の働き方(発現 量)の変化に注目し、スギの生理的な応答と相関のある複数の遺伝子を明らかにしました。これらの 遺伝子の発現量を解析するマーカーを開発し、乾燥条件下であっても通常の条件下とほぼ同様の生理 状態を保つ系統を評価することが可能になりました。
成果の内容・特徴 ■気候変動に適応したスギの系統評価に向けた課題 
気候変動に伴う高温や乾燥などの環境条件は、スギなどの人工林の生産性や健全性に大きな影響を与えると予想されています。このため、林木育種においても今後想定される気象条件を踏まえて系統の評価や選抜を行うことが求められます。しかし、人為的に気温や与える水の量を調節した環境を作るには多くの手間や大規模な設備が必要です。また、ストレスを与えて個体の成長などを評価するためには長い期間を要し、同時に評価できる系統数が限られるため、複数年に分けて試験を繰り返す必要があるなど多くの課題が残されています。このため、スギの系統ごとの生理的な状態や遺伝的特性を比較的簡便に評価できる指標の開発を進めました。
■遺伝子発現量に着目した環境適応性の評価 
温室でスギのさし木苗を育成し、与える水の量を制御した環境の下(図1)で乾燥に対するスギの成長や生理的な特性を定量的に評価し、それと並行してストレス環境下での多数の遺伝子の働き方(発現量)を解析し、乾燥の進行とともに発現量が変化し乾燥に対する生理的な応答と相関のある複数の遺伝子(遺伝子群)に絞り込みました。 この遺伝子群の発現量について全体の傾向を捉えるために主成分分析を行った結果を図2に示します。グラフの横軸と縦軸は、それぞれ遺伝子の発現量の全体の傾向を要約したもので、各点は異なるスギの系統を示しています。遠い点同士は遺伝子発現の傾向が異なっていることを、近い点同士は遺伝子発現の傾向が類似していることを意味します。青色の点は水やりを継続した潅水区を、赤色の点は水やりを停止した乾燥区を示しています。潅水区では点が比較的まとまっていますが、乾燥区では横軸方向に大きく分散しており、乾燥に対する系統ごとの生理的な応答の違いが現れています。また、乾燥区のスギの中には潅水区と同様の位置を示す点があり、このような系統は潅水区と同様の遺伝子発現の傾向を示すことがわかりました。さらに、乾燥時に潅水区と同様の遺伝子発現の傾向を示す系統は、乾燥時にも潅水時と同様に光合成を行っていることも明らかになりました。
■環境適応性を評価する遺伝子発現マーカーの開発 
このように絞り込んだ比較的少数の遺伝子の発現の傾向を系統間で比較できる遺伝子発現マーカーセットを開発しました。スギの成長などの調査と合わせて遺伝子発現も解析することで、乾燥試験の省力化や生理的な応答の把握も踏まえた品種改良が可能になると期待されます。
■研究資金と課題 
本研究は、農林水産技術会議委託プロジェクト研究「気候変動に適応した花粉発生源対策スギの作出技術開発」による成果です。
■専門用語
遺伝子発現:DNA上の遺伝子の情報がRNAに転写されて機能すること。
主成分分析:多くの変数がある場合にそれを比較的少数の主だった変数として要約するためのデータ解析の手法。第一主成分と第二主成分は、それぞれ元になった多数のデータを一番目と二番目に説明する要約された変数。
生理的な応答:環境条件などの変化に伴って樹木の内部で生じる生理的な変化。
林木育種:森づくりに用いる樹種の品種改良。
図表1 249194-1.png
図表2 249194-2.png
研究内容 https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2021/documents/p42-43.pdf
カテゴリ 育種 乾燥 くり 省力化 品種改良

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