タイトル | 食生活における脳機能研究への近赤外分光分析法(NIRS)の応用 |
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担当機関 | (独)食品総合研究所 |
研究期間 | 2002~2003 |
研究担当者 |
岡本雅子 五十部誠一郎 坂本晋子(食総研) 小西郁夫 小田一郎 神山かおる 清水公治 檀はるか 檀一平太 武尾和浩 網田孝司(島津製作所) 鈴木建夫 |
発行年度 | 2003 |
要約 | リンゴの皮むきに伴う脳活動をNIRSで計測し、大脳皮質運動領域に加えて、前頭前野が 活性化していることを初めて見出した。NIRS は食生活における脳機能研究に有効な方法である。 |
キーワード | 近赤外分光分析法、NIRS、脳機能、リンゴ、皮むき、食生活、調理 |
背景・ねらい | 人間の食生活は様々な脳の働きによって支えられている。しかし、食生活における脳活動を測定するこ とは技術的に困難であったため、これまで、食生活を脳活動の観点から捉えた研究はなかった。一方、近 年開発の進んでいる、近赤外分光分析法(NIRS)による脳活性の測定は、従来の脳機能計測法に比べて拘 束性が低く、食生活と脳活動の関係を調べる上で、有用な手法となる可能性があった。そこで、食生活に おける重要な要素である調理活動の代表例として、リンゴの皮むき時における大脳皮質の活性化パターン を、NIRS を用いて調べた。 |
成果の内容・特徴 | 1. これまでの脳研究における知見を考慮すると、リンゴの皮むきといった、複雑な運動に関しては、運 動野、運動前野、補足運動野といった、大脳皮質の運動関連領域での活性が予想されるが、本研究で は、これらに加えて前頭前野での活性化が起こるかどうかを調べた。 2.従来の脳機能測定法との対応を取るために、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)と NIRS同時測定を試 みた。fMRI 環境下では、安全上の理由から「リンゴの皮むき」は行えないため、「リンゴの皮むきの まね」をする際の脳活性化パターンを調べた(図1)。この結果、運動野、運動前野、補足運動野と いった、運動関連領域に顕著な活性がみられたが、前頭前野では活性化は認められなかった(図2)。 3. NIRSみの測定(図3)によって、「リンゴの皮むき」をする際の前頭前野での脳活性化を調べたと ころ、有意なレベルでの脳活性が認められた(図4)。 4. これらにより、リンゴの皮むきは前頭前野の活性化を伴う活動であることが分かった。 5. 前頭前野のどのような機能に関するか、本研究では詳細な因果関係の解析はできないが、「危険な刃 物の動きに注意を向けつつリンゴを微妙に動かす」といった作業が、前頭前野のワーキングメモリー (作業記憶)を活性化している可能性が高いと推定している。 6. NIRS は、「リンゴの皮むき」といった食生活に伴う脳活動の計測に有効である。 |
成果の活用面・留意点 | 1. 食生活に伴う脳活動を客観的に記述することが可能となり、食生活を脳活動の観点から捉えるための 端緒が得られた。 2. 現時点の脳機能研究における知見の範囲では、「リンゴの皮むきが脳機能向上に役立つ」という解釈 は短絡的であり、このような解釈は避けるべきである。 3. 「食生活を通じて様々な脳の部位を使う」という指針を明示した上で、運動領域に加えて前頭前野の 活性化を誘起するために、リンゴの皮むきや、それに類する調理活動を行うといった目的には、本知 見を活用することは可能である。 |
カテゴリ | りんご |