脳における味の記憶生成の可視化

タイトル 脳における味の記憶生成の可視化
担当機関 (独)食品総合研究所
研究期間 2002~2006
研究担当者 岡本雅子
松波万理
神山かおる(食総研)
檀はるか
檀一平太
木幡知子(日本水産株式会社)
発行年度 2005
要約 機能的近赤外分光分析法(fNIRS)を用いて、ヒトが味を覚えようとする、意図的記銘時に、大脳の前頭前野領域が働くことを見出した。この領域は、他の感覚情報の意図的記銘にも関与しており、味覚にも、他の感覚と共通の情報処理機構の関与が示唆された。
キーワード 機能的近赤外分光分析法、脳機能、味、味覚、意図的記銘、食育、前頭前野
背景・ねらい 脳が様々な感覚からの情報入力を受けてから、その情報を記憶として貯蔵するまでの認知処理過程、すなわち、 「覚える」過程を「記銘」という。fMRI(機能的核磁気共鳴法)や PET(陽電子放出断層撮像法)など、ヒト脳の働きを観察するイメージング技術の発展により、これまで、視覚、聴覚、触覚といった感覚情報を、意図 的に記銘する際、つまり覚えようとして覚える際に、脳の前頭前野という領域が関与していることが分かってき た。しかし、味覚の意図的記銘にも前頭前野が働くのかどうかは謎だった。味覚の記銘に関する脳機能研究が遅 れている理由は、fMRI や PET測定環境下では、被験者が自由に味を味わうことが困難であるためである(図 1)。一方、近年、開発の進んだ機能的近赤外分光分析法(fNIRS)は、ヒトの脳活動に伴う血流の変化を、近 赤外光を用いて非侵襲に計測する方法である。測定装置はコンパクトで、日常環境に近い状態で、被験者が自由 に味を味わうことが可能である。しかし、fNIRS 単独では、脳の空間解析が困難であるという問題もあった(図 2)。そこで、fNIRS にコンピュータシミュレーションを導入した新たな空間解析法を適用することによって、 味覚の意図的記銘にも、他の感覚と同様、前頭前野が関与しているかどうかを検討した。
成果の内容・特徴 1. 頭の上に置かれた fNIRS計測プローブの位置を、仮想レジストレーションという、コンピュータシミュ レーションを用いた新規の空間解析法によって、標準脳座標空間に表現した。これによって、fNIRS デー タを fMRI や PET研究結果と容易に比較できるようになった。
2. 2種類の溶液を連続して味わい、両者が同じかどうか比べるには、最初の味を覚える必要がある(意図的 記銘条件)。この意図的記銘条件時の脳活動を fNIRS で計測した。また、同様の溶液を、味を覚えようと しない条件でも味わってもらった(対照条件)。意図的記銘条件から対照条件の脳活動を差し引いて、意図 的記銘に関わる脳活動を抽出したところ、左右両側の前頭前野に有意な脳活性が認められた(図3)。
3. 味を意図的に記銘する際の脳活動パターンは、言語化しにくい情報の意図的記銘としては典型的なもので あった。味覚の意図的記銘にも、視覚、聴覚、触覚の意図的記銘と同様の前頭前野領域が関与することが 明らかになった。
4. 前頭前野領域は、様々な認知処理過程に働くことが知られているが、その働きが、感覚間で共通かどうか はまだ分かっていない。今回の結果は、前頭前野領域の認知処理機能は、感覚入力に拠らず共通であると いう説を支持するものである。
成果の活用面・留意点 1. 本研究は、味覚の記憶生成に関わる脳領域の可視化に初めて成功したものである。
2. 将来的には、食品開発に必須の技術である官能評価中に、評価者が脳をどのように使うかをモニタリング することが可能となる。評価者の認知特性を詳細に調べることで、効果的な食品開発を行う可能性が広がる。
3. 今回の発見によって、いわゆる「ながら食べ」では料理の味がよく分からないといった体験の一因は、味覚の認知処理と他の感覚の場合とで共通の前頭前野領域が使われ、情報処理に必要なリソースが競合するためではないか、という説明ができる。「食育」的な観点からも有用な参考情報を提供する成果である。
カテゴリ モニタリング

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