タイトル | 小笠原固有高木種オガサワラグワの保全 |
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担当機関 | 森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
河原 孝行 吉丸 博志 金指 あや子 |
発行年度 | 1999 |
要約 | 小笠原諸島に固有の絶滅危惧種オガサワラグワの繁殖動態を調べた。遺伝マーカーを使って、成木では、父島の73%、母島では48%が導入種シマグワとの雑種、弟島の1集団のみ純血、と判定した。また、母島の実生は全て雑種であった。 |
背景・ねらい | 小笠原諸島は東洋のガラパゴスと呼ばれるほど貴重な生物に富んだ海洋島である。オガサワラグワは小笠原諸島の混性高木林を代表する固有植物であるが、明治以降の入植による乱伐により激減してしまった。さらに、養蚕のために導入したシマグワが逃げ出して島内にはびこり、オガサワラグワとシマグワとの間に雑種ができているといわれる。現在、絶滅危惧IA類に指定されており、種の存続が危ぶまれている。オガサワラグワの保全に向けて、どのくらいの数のオガサワラグワが残っているのか、シマグワとの間に雑種化はどのくらい進んでいるのか、他にどんな保全を妨げる要因があるか、を調べた。 |
成果の内容・特徴 | 現地調査を行い、オガサワラグワが生育している所・状況を調べた(写真1)。また、形態的特徴だけではオガサワラグワと雑種を明確に区別できない時があったので、生育環境の影響を受けないアロザイム酵素多型やRAPDと呼ばれるDNAマーカーを使った遺伝分析実験によって見分けた(表1)。その結果、シマグワとの交雑によって遺伝的に汚染されていない純潔なオガサワラグワは弟島広根山北斜面の1集団約40個体だけであった(図1)。父島では1個体からせいぜい7個体に孤立して分布しており、その73%が雑種と判断された。母島では、桑の木山、石門の2箇所に各約20個体、営農研修所に植栽木が5個体生育していたが、その48%は雑種であった。シマグワは全島にわたって林緑・林内に普通に見られた。 母島桑の木山のオガサワラグワ1母樹に由来する実生30個体の雑種性を検定したところ、すべて雑種と判断された。このことはオガサワラグワとシマグワが共存している父島・母島ではオガサワラグワ同種間の交配が行われず、次世代ではオガサワラグワの純血が絶えてしまう危険性を示している。純血集団の残る弟島でも椎樹が観察されない一方、5年間の観察で約40個体のうち2個体が枯死しており、次世代への更新ができず衰退している。オガサワラグワの種子発芽率は59%から91%と高いにもかかわらず更新が困難になっているのは、野生化したヤギやブタ・ネズミによる食害や生育地そのものの乾燥化により実生・稚樹が定着できないことなどがこの原因と考えられる。また、母島・父島では導入樹種のアカギによる被圧も椎樹の更新阻害要因と考えられた。 このように、オガサワラグワの保全にあたっては様々な要因が更新を阻害していることが明らかになった(図2)。オガサワラグワの保全・修復には、これらの要因に総合的に対策を立てていくことが重要である。 なお、本研究は環境庁国立機関公害防止等試験研究「小笠原森林生態系の修復・管理技術に関する研究」による。 |
図表1 | ![]() |
図表2 | ![]() |
図表3 | ![]() |
図表4 | ![]() |
図表5 | ![]() |
図表6 | ![]() |
図表7 | ![]() |
図表8 | ![]() |
カテゴリ | カイコ 乾燥 管理技術 DNAマーカー 繁殖性改善 豚 山羊 |