タイトル |
タイ北部の伝統大豆発酵食品トゥア・ナオから分離される納豆菌の遺伝資源としての有用性 |
担当機関 |
(独)国際農林水産業研究センター |
研究期間 |
2006~2006 |
研究担当者 |
Ladda Wattanasiritham(カセサート大学食品研)
稲津康弘
川本伸一(農研機構食総研)
中村宣貴
伏見力
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発行年度 |
2007 |
要約 |
タイ北部の大豆発酵食品トゥア・ナオ(Thua Nao)から分離される納豆菌(Bacillus subtilis (natto))は、日本の納豆製造用菌株と比べて遺伝的多様性に富み、アミラーゼ活性、ズブチリシンNAT活性、粘物質生産能などが顕著に高い菌株が見出される。
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背景・ねらい |
タイ北部の伝統大豆発酵食品トゥア・ナオ(Thua Nao)は、製法が納豆に類似するが、伝統的な家内工業生産が維持されているため、工場生産のために特定菌株による寡占化が進んだ日本の納豆に比べて、発酵に関与する納豆菌(Bacillus subtilis (natto))の遺伝的多様性が保たれ、優れた特色のある菌株の存在も期待される。本研究では、トゥア・ナオから納豆菌を分離し、RAPD法によるDNA多型の比較により、分離菌株の遺伝的多様性について確かめる。また、大豆発酵食品の栄養強化に関与し得る特性としてプロテアーゼ活性およびアミラーゼ活性を、保健機能の強化に関与し得る特性としてズブチリシンNAT(いわゆるナットウキナーゼ)活性および粘物質の生産能を評価する。
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成果の内容・特徴 |
- タイ北部のチェンライ県およびパヤオ県の8市場で収集した9点のトゥア・ナオから45株の納豆菌を分離し、日本の納豆製造に多く利用される宮城野菌を対照菌株として、以下の特性の評価結果を得た。
- 分離納豆菌株から抽出したDNAのRAPDパターンには、分離菌株の遺伝的多様性を裏付ける多数のパターンが見出される(45株は19種類のパターンに分類された、図1)。
- カゼイン分解法によってプロテアーゼ活性を比較したが、対照菌株との差はほとんど見られない。
- ブルーバリュー法によってアミラーゼ活性を比較すると、対照菌株の5倍以上の活性を示す菌株が存在する(45株中10株、図2)。
- フィブリン平板法によってズブチリシンNAT活性を比較すると、対照菌株の2~3倍程度の活性を示す菌株が存在する(45株中5株、図3)。
- GSP培地およびNA培地上での粘物質生産の有無によって粘物質生産能を比較すると、対照菌株より強い粘物質生産能を示す菌株が存在する(45株中7株、図4)。
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成果の活用面・留意点 |
- トゥア・ナオから分離される納豆菌は、単に遺伝的な多様性に富むだけでなく、タイでの長年の食経験により、食品への応用について安全性が確保されている点において、非常に有用な遺伝資源である。
- トゥア・ナオから分離される納豆菌には、アミラーゼ活性、ズブチリシンNAT活性、粘物質生産能において、日本の納豆製造に利用される宮城野菌と比べて優れた菌株が存在し、食品等への利用が可能である。
- トゥア・ナオから分離される納豆菌は、遺伝的な多様性に富むので、その他の形質においても優れた菌株の存在が期待される。
- タイ国内でも食品の工場生産化が進む現状において、こうした伝統発酵食品等に潜む貴重な遺伝資源の保全が確実に行われているとは必ずしも言えない。本成果のような具体的事例を示しながら、発展途上国が自国の貴重な食品微生物遺伝資源に注目し、機を逸せずしてその保全を進められるよう、提言して行く必要がある。
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図表1 |
214703-1.pdf |
図表2 |
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図表3 |
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図表4 |
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図表5 |
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図表6 |
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図表7 |
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図表8 |
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図表9 |
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カテゴリ |
遺伝資源
大豆
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