タイトル |
わが国における小麦の放射能汚染の長期観測 |
担当機関 |
(独)農業環境技術研究所 |
研究期間 |
1957~2001 |
研究担当者 |
駒村美佐子
津村昭人(元農環研)
木方展治
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発行年度 |
2001 |
要約 |
小麦中の 90Srと 137Cs40年以上にわたる経年変化を調査した。小麦の汚染経路は,両核種とも放射能多量降下期では直接汚染が,最近のような放射能微量降下期では間接汚染が主である。製粉により放射能レベルは数分の一に減少した。
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背景・ねらい |
核爆発実験や原子炉事故等により環境中に放出された放射性核種の人類に対するリスクを評価するために,日本人の主要食料である米と小麦の 90Srおよび 137Csによる汚染の実態調査と解析を長期間継続して実施している。ここでは,わが国ではほとんど報告例のない小麦中の 90Srと 137Cs含量の,長期にわたる調査結果とその汚染解析について報告する。
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成果の内容・特徴 |
- 1959年から現在まで,全国の国公立農業試験場15カ所の定点から採取した小麦について 90Srおよび 137Csの濃度変動を調査解析した。
- 玄麦中の 137Csレベルは,大気圏核実験が行われていた1963年に最大値43,600mBq/kgに達し,その後1985年には45mBq/kgまで減少した。1986年,チェルノブイリ原子炉事故によりその年度のみ 5,960mBq/kgレベルまで上昇した。しかし,その後減衰し続け,現在では 30mBq/kg以下の濃度となっている(図1)。
- 玄麦中の 90Srレベルは,1963年に最大 12,300mBq/kgを検出した。チェルノブイリ原子炉事故に際して汚染レベルの上昇は観測されなかった。その後,濃度は 200mBq/kg以下と横ばい状態で現在に至っている(図1)
- 農作物の放射能汚染経路として,地上部から取り込まれる直接汚染と根から吸収される間接汚染が知られている。小麦の汚染経路を移行係数(小麦の 90Srと 137Cs含量/土壌の 90Srと 137Cs
含量)をもとに解析したところ(図2),1963年頃の放射能多量降下期では両核種とも80%以上が直接汚染に起因していた。1986年のチェルノブイリ原子炉事故年の 137Csでも同様の結果が得られた。最近では両核種ともその降下がほとんど観測されないため,ほぼ全量が間接汚染に起因している。
- 汚染レベルの異なる5カ年の試料を用いて 90Srと 137Csの玄麦/小麦粉の濃度比を求めた(図3)。 90Srおよび 137Csともに玄麦中濃度が小麦粉中濃度の1~4倍であり,ふすまに集積しやすいことが明らかになった。
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成果の活用面・留意点 |
- 日本人の放射線への被ばく評価資料として活用できる。
- 平常時の国産麦中の人工放射性核種の濃度レベルを明らかにし,放射性物質への無用な不安感を払拭できる。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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カテゴリ |
小麦
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