タイトル |
水田土壌におけるダイオキシン類の年間収支の推定 |
担当機関 |
(独)農業環境技術研究所 |
研究期間 |
2001~2005 |
研究担当者 |
上垣隆一
清家伸康
大谷卓
|
発行年度 |
2004 |
要約 |
水田土壌におけるダイオキシン類の年間収支を試算した。1 m²あたりの水田土壌へのダイオキシン類の年間負荷量は5.3 ng-TEQ,同消失量は686 ng-TEQと見積もられ,現在の残留量24,600 ng-TEQと比較すると,その増減割合はごくわずかであり,今後大幅なダイオキシン類濃度の変動はなく,きわめて緩慢に減少していくものと予想される。
|
背景・ねらい |
水田土壌には,かつて用いられた除草剤の中に微量に混在していたダイオキシン類が残留している。水田へのダイオキシン類の負荷要因としては,大気降下物,大気ダイオキシン類を捕捉したイネ体の圃場還元および農業用水による混入が,また消失要因としては代かき時の系外流失および分解・揮発等が考えられる。そこで,農業環境技術研究所内試験水田におけるダイオキシン類の年間収支を試算し,今後の水田土壌中ダイオキシン類の汚染動向を推定する。
|
成果の内容・特徴 |
- 所内水田圃場において大気降下物の通年的なモニタリングを行った結果,年間1 m²あたりの大気降下物としてのダイオキシン類負荷量は2.0 ng-TEQ(毒性等量)となる。
- 収穫時におけるイネ体中のダイオキシン類の分析結果より,栽培期間中に大気からイネ体に捕捉されるダイオキシン類は,1 m²あたり茎葉に3.0 ng-TEQ,モミガラに0.35 ng-TEQ,玄米に0.001 ng-TEQである。このうち,モミガラおよび玄米分の0.35 ng-TEQ/m²は系外に持ち出され,茎葉分の3.0 ng-TEQ/m²は土壌に還元されると仮定する。
- 当該圃場の土壌ダイオキシン類濃度は82 pg-TEQ/g で,サンプリング深を30cm,容積重を1とすると,土壌中のダイオキシン類残留量は24,600 ng-TEQ/ m²と見積もられる。
- 上記の値といくつかの文献値を用いて試算した,当該水田土壌における年間ダイオキシン類収支を図に示す。
(1) 負荷量:大気降下物として2.0 ng-TEQ/m²が,イネ体の還元として3.0 ng-TEQ/m²が負荷される。また,用水からの流入量は環境省の調査結果より算出して0.3 ng-TEQ/m²と見積もられる。合計して,水田への年間ダイオキシン類負荷量は5.3 ng-TEQ/m²となる。 (2) 消失量:当該水田土壌中に残留しているダイオキシン類量24,600 ng-TEQ/ m²を初期値とし,みかけの半減期を25年 (農水省が土壌中ダイオキシン類濃度の試算に用いている値) として算出した年間のダイオキシン類減少量は681 ng-TEQ/ m² となり,負荷量を考慮すると年間消失量は686 ng-TEQ/m²と見積もられる。代かき時に系外に流出する量として当該圃場における平成13年度の実測値1.8 ng-TEQ/m²を採用すると,消失の大部分は分解あるいは揮発によるものと考えられる。
- 水田土壌中のダイオキシン類残留量に対し,年間のダイオキシン類の負荷量は0.022%,消失量は2.8%に相当する。したがって,当該土壌においては今後大幅なダイオキシン類濃度の変動はなく,きわめて緩慢に減少していくものと予想される。
|
成果の活用面・留意点 |
- ここで示した試算は一例であるが,同様の算出方法により,有機質資材等ダイオキシン類を微量に含む資材を投入した際の土壌への影響の評価等に活用できる。
- イネ体のダイオキシン類は,大部分が大気由来であることが明らかになっている。また,可食部である玄米中のダイオキシン類濃度は極めて低い(0.001pg-TEQ/g)。
|
図表1 |
|
カテゴリ |
土づくり
肥料
病害虫
除草剤
水田
モニタリング
|