土壌中におけるL-DOPAの植物生育阻害活性の消長

タイトル 土壌中におけるL-DOPAの植物生育阻害活性の消長
担当機関 [分類]
研究期間 2001~2005
研究担当者 荒谷博
藤井義晴
平舘俊太郎
発行年度 2005
要約 マメ科植物のムクナが生産する植物生育阻害物質 L-DOPA は,土壌中では吸着反応や変換反応などによってその生理活性を失う。土壌pHの高い土壌では変換反応が速やかに進行するため, L-DOPA による植物生育阻害作用は起こりにくい。この吸着反応および変換反応には, L-DOPA持つカテコール構造が深く関わっている。 
背景・ねらい マメ科植物のムクナ(Mucuna pruriens)は,植物体内に高濃度の L-DOPA (図1A)を持つ。この L-DOPA は強い植物生育阻害活性を示すことから,ムクナの生育地周辺では L-DOPA による植物生育障害が考えられる。しかし, L-DOPA土壌中での挙動が不明であるため,野外での L-DOPA影響を適正に評価することはできない。本研究では, L-DOPA影響を評価するために土壌環境中で受ける化学反応およびその特性を解明するとともに,これらの反応にともなう L-DOPA生理活性の変化を明らかにする。
成果の内容・特徴
  1. 土壌に添加した L-DOPA は,反応時間の経過とともに土壌溶液中から消失する(図2)。この消失には,(1)反応開始後0~8時間に主として起こる吸着反応(Phase 1),(2)反応時間にかかわらず一定速度で起こる変換反応(Phase 1, 2, 3),(3)反応開始72時間以降に急激に起こる微生物による分解反応(Phase 3),の3つが関与している。
  2. L-DOPA が土壌に吸着された場合および土壌によって変換された場合には,いずれも植物生育阻害活性をほとんど示さなくなる。
  3. 土壌による L-DOPA変換反応は常に一定速度で起こるため,一般に変換反応の影響は吸着反応よりも大きい。この変換反応は,土壌pHが高いほど速やかに進行する(図3)。土壌が存在しなくてもpHが高ければ L-DOPA変換反応は起こるが,土壌の共存下ではこの変換反応は加速されることから,この変換反応は触媒的な反応と考えられる。同じ土壌pHで変換速度を比較すれば,沖積土壌>石灰質土壌>火山灰土壌の順となる。
  4. 土壌による変換反応により, L-DOPA は暗色の腐植に類似した物質へと変化する。
  5. L-DOPAのカテコール構造からOH基が一つ除かれた L-チロシン (図1B)やOH基が二つ除かれた L -フェニルアラニン(図1C)では吸着反応および変換反応はほとんど起こらない。このことから,土壌による L-DOPA吸着反応および変換反応には, L-DOPAカテコール構造(o-ジヒドロキシベンゼン構造)が深く関与している。
  6. 土壌が存在すると, L-DOPA植物生育阻害活性は大きく低下する(図4)。その低下の程度は,土壌吸着の影響が大きいとされる除草剤2,4-Dの場合よりもはるかに大きい。 L-DOPA植物生育阻害活性は,沖積土壌(土壌pH 5.4)>火山灰土壌(土壌pH 5.6)>石灰質土壌(土壌pH 7.4)の順となる。土壌溶液中における L-DOPA 濃度も同じ順序となる。
成果の活用面・留意点
  1. 土壌pHが高い石灰質土壌では, L-DOPA による生育阻害作用はほとんど起こらないと考えて良い。既報のポット試験においては,火山灰土壌では L-DOPA植物生育阻害作用が起こりにくいことが確認されている。しかし,吸着・変換反応が起こりにくい土壌では,植物生育阻害作用が発現する可能性がある。
  2. カテキン等他のカテコール化合物も, L-DOPA と同様の反応により失活する。
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図表1 225438-1.jpg
カテゴリ 病害虫 除草剤 土壌環境

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