タイトル | オセロットにみられた胃侵入性Helicobacter感染症 |
---|---|
担当機関 | (独)農業・生物系特定産業技術研究機構 動物衛生研究所 |
研究期間 | 2005~2005 |
研究担当者 |
嘉納由紀子(北海道石狩家保) 久保正法 山本慎二(北海道釧路家保) 芝原友幸 石川義春 福井大祐(旭山動物園) 門田耕一 |
発行年度 | 2005 |
要約 | 高い胃侵入能をもつHelicobacter様菌がオセロット(ネコ科)の胃壁細胞の分泌細管あるいは細胞質内に局在することを明らかにした。新しい学術用語として“gastroinvasive Helicobacter-like organism(胃侵入性ヘリコバクター様菌)”を提唱した。 |
キーワード | 細菌感染、gastroinvasive Helicobacter-like organism、Helicobacter heilmannii、胃侵入性、壁細胞、オセロット(Leopardus pardalis)、ネコ科 |
背景・ねらい | ヒトのH. pylori感染症は、慢性胃炎、潰瘍、リンパ腫、腺腫などの発生に関与している。ネコ科動物のHelicobacter属菌も同様に軽度の胃炎、慢性胃炎、リンパ濾胞の過形成、腺癌に関連している。通常、Helicobacter属菌は粘膜表層や胃小窩に存在し、イヌとネコでは、Helicobacter属菌が壁細胞に密接するものの、分泌細管つまり細胞外に局在する。一方、サルのH. heilmannii様菌は、明らかに細胞質内であったが、その数は非常に少ない。今回、ネコ科動物において高い細胞質内侵入能をもつHelicobacter様菌が確認されたため、その病理学的特徴とその病理発生機構を明らかにすることを目指した。また、“gastroinvasive Helicobacter-like organism(GHLO)”を提唱した。 |
成果の内容・特徴 | 1. 19歳の雌のオセロットが左鼻腔から出血し、食欲低下、脱水を呈して出血の翌日死亡した。剖検では、肺に直径0.1∼0.5cmの膿瘍が多数みられ、死因と考えられた。肉眼的に胃底部粘膜における多発性潰瘍が認められた。 2. 組織学的にも、多発性胃潰瘍があり、好中球が浸潤していた。他の部分では壁細胞の過形成がみられ、しばしば多核化し(図1)、核濃縮や壊死もみられた。一方、主細胞や頚部粘液細胞は減数していた。多数の好銀性グラム陰性GHLO(図2)が多くの壁細胞の細胞質内にみられ、その数は胃小窩よりも多かった。GHLOが多くみられる壁細胞の細胞質内には、好銀性でPAS陽性の顆粒が多くみられた。 3. 抗H. pyloriポリクローナル抗体(Dako)を用いた免疫組織化学的染色により、GHLOは陽性反応を示した。壁細胞の過形成部では、増殖細胞核抗原(proliferating cell nuclear antigen)をもつ上皮細胞が、増殖帯のみならず粘膜下層にもみられた。 4. 超微形態学的に、細胞質内、分泌細管、胃小窩にGHLO(図3)が確認できた。細菌は長さ4.9∼6.9μm、幅0.4∼0.6μm、8∼10回転する菌体で少なくとも4本のpolar flagellaをもつが、periplasmic fiberはみられなかった。これらの特徴は、LockardがHelicobacter属菌を形態学的に分類したもののうち、type 3に属するH. heilmanniiに極めて類似していた。また、ミエリノソーム(図4)あるいは2次リソソームを含む壁細胞がみられた。 5. これらのことから、壁細胞の過形成はこのGHLOの細胞内寄生によることが示唆された。また、抗生物質による治療が困難であることが予想された。 |
成果の活用面・留意点 | 1. ネコ科動物の消化管疾病における原因のひとつとして、GHLOを考慮する必要がある。本研究は、本疾病の存在を認識し、その診断および治療の開発に有用な資料となる。 2. ネコ科動物を中心に各種動物のGHLOの感染状況を調査する必要がある。 |
図表1 | |
図表2 | |
図表3 | |
図表4 | |
カテゴリ |