タイトル |
種子着生数を3倍にするオオムギ六条性遺伝子の単離 |
担当機関 |
重点支援 |
研究期間 |
2005~2007 |
研究担当者 |
小松田隆夫
Mohammad Pourkheirandish
Congfen He
Perumal Azhaguvel
松本隆
矢野昌裕
田切明美
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発行年度 |
2006 |
要約 |
二条オオムギにおいて穂の一部の器官の発達を強制的に抑えている遺伝子の単離に成功した。この遺伝子はわずか1塩基の突然変異でその機能は失われて抑制が解かれ、六条になることが明らかとなった。イネ科作物の進化と栽培起源、および高収量性の観点から画期的な発見である。
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キーワード |
イネ科、ゲノム、栽培化、突伝変異、転写因子、収量
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背景・ねらい |
六条オオムギは食品や飼料として、二条オオムギはビール醸造用として世界で広く栽培されている主要穀物である。考古学的には、オオムギは約1万年前にまず二条オオムギが栽培化され、その後、穂に3倍の種子を着け、収量の多い六条オオムギが急速に普及した。作物栽培起源研究の気運の中、この栽培化にあたって重要な役割を果たした六条性遺伝子を取り出し、進化の原因を解明することが世界的な関心事であった。
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成果の内容・特徴 |
- 全てのオオムギは穂軸に3個の一花小穂を着けるが、全ての小穂が結実するタイプの六条オオムギと、3個のうち中央の小穂だけが結実するタイプの二条オオムギに分けられる(図1)。この条性の違いは1遺伝子支配であり、二条が遺伝的に優性である(遺伝子型 Vrs1)。すなわち、Vrs1 は二条オオムギで側列の小穂の発達を強制的に抑制している(図1)。
- Vrs1 の詳細な連鎖地図と物理地図の作成をすすめ、遺伝子の単離に成功した。単離した遺伝子 Vrs1 は予想通り二条オオムギの両側の小穂原器でのみ発現していることが明らかとなり、小穂自身の発達を抑えていることが示された(図2)。一方、わずか1塩基の突然変異でその機能は失われ、両側の小穂も発達し、六条オオムギになることを明らかにした(図3)。
- この遺伝子 Vrs1 からつくられるタンパク質は、他の遺伝子の働きを制御すると推定される、HD-ZIP_I型の転写因子であることが明らかになった(図3)。48系統の突然変異体を分析したところ Vrs1 遺伝子の塩基配列に機能欠損をもたらす変異が認められた(図3)。これ以外の7系統の突然変異体では Vrs1 遺伝子の転写レベルが著しく低下したことが形態変化の原因であった。
- Vrs1 遺伝子のDNA塩基配列を用いた進化系統解析の結果、Vrs1(二条)からvrs1(六条)への突然変異には有意に異なる3つのルート(a1、a2、a3)が認められるため(図4)、
一万年のオオムギ栽培の歴史の異なる時代・地域でこの変異が独立に生じたと考えられる。
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成果の活用面・留意点 |
- 国内で既に得られていたイネゲノム塩基配列解読情報を近縁のオオムギに適用した成功例であり、今後、他のイネ科作物における同様の研究に応用できる。
- イネ科作物の進化や栽培起源の研究ばかりではなく、作物の収量性改良にも利用できる重要な成果である。
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カテゴリ |
大麦
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