イネ栽培化の鍵となった脱粒性抑制遺伝子を同定

タイトル イネ栽培化の鍵となった脱粒性抑制遺伝子を同定
担当機関 QTLゲノム育種センター
研究期間 1999~2001
研究担当者 井澤毅
小西左江子
林少揚
江花薫子
福田善通
佐々木卓治
矢野昌裕
発行年度 2006
要約 ジャポニカ品種「日本晴」とインディカ品種「カサラス」間に見出されたQTLのひとつである qSH1 遺伝子を単離し、日本等で栽培されているイネ品種の栽培化に必須であった脱粒性の喪失過程の鍵となったと思われるDNA変異を同定した。
キーワード イネ、脱粒性、栽培化、QTL解析、アソシエーション解析、ゲノム育種
背景・ねらい 日本で栽培されているイネは、約1万年前に、中国の長江中流域で、栽培化され、その後日本に伝えられたと考えられている。自生していたイネ(野生イネ)が栽培イネになるまで、つまり、人間の手によるイネの栽培化の過程においては、草型の変化、稔性の向上、自殖性の獲得、種子の形・大きさの変化等、様々な望ましい農業形質が人為選抜を繰り返すことで改善され、収量性の向上が起こったと考えられる。なかでも、野生イネに特徴的な脱粒性を喪失する過程は、イネの栽培化の上で、コメの収穫量を上昇させる重要な変化であった。この特性に着目して遺伝子同定を試みた。
成果の内容・特徴
  1. 比較的脱粒しやすい品種であるインディカ型イネ品種のカサラスと、ほとんど脱粒しないジャポニカ型イネ品種の日本晴の品種間での脱粒性の差を利用して、これに関与する遺伝子をQTL解析によって同定した(図1)。
  2. その中で、最も脱粒性への効果が大きかった遺伝子を qSH1 遺伝子と名づけ、その後の解析を行った。qSH1 領域だけがカサラス型の系統(準同質置換系統と言う)(NIL(qSH1))を作成した
    ところ、日本晴では、全く形成されない離層(脱粒時に組織が崩壊する層状の細胞群)がもみの基部に形成されるようになり(図2)、カサラスでは離層を形成する機能をもっている qSH1 遺伝子が、突然変異等によりその機能を失うことで日本晴が脱粒性を失ったことが示唆された。
  3. 次に、1万個体を超えるサンプルを用いて詳細な遺伝解析を行い、qSH1 遺伝子をマッピングし、qSH1 遺伝子の機能の違いを決めているDNA配列の変異を明らかにした(図3)。さらに、同定した塩基配列の変異の場所から1万2千塩基(12kb)離れたところにある遺伝子が qSH1 遺伝子そのものであることも明らかにした。
  4. 今回明らかにした変異が、野生イネをはじめ、いろいろなイネ系統・品種内にどのように分布しているかを調べた結果、ジャポニカ型イネ系統内にのみに見いだされた。このことは、約1万年前から3000年前(水稲が日本に伝来した時期)までに、このDNA変異をもつ個体を、古代人が、脱粒せず、より栽培に向いているイネとして、選抜したということを示唆している(図4)。
成果の活用面・留意点
  1. インディカ型イネの多くは、ジャポニカ型イネに比べると脱粒しやすいものが多く、いまでも収量を減らす原因のひとつとなっている。今回同定した変異を、交配によりインディカ型イネに導入すれば、世界の多くの人が主食として食しているインディカ型イネの収量増加に大きく貢献すると期待できる。
  2. イネの栽培化で選ばれた遺伝子、そして、そのDNA変異の同定が、今後の育種にも役立つ可能性を示した。
  3. シロイヌナズナとの知見の比較により、今回の遺伝子単離は、離層形成に係る進化上保存され
    た分子機構の存在を示唆している。
カテゴリ 育種 ゲノム育種 品種

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