タイトル | Krüppel homolog 1 (Kr-h1 )遺伝子を介した幼若ホルモンの変態抑制機構 |
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担当機関 | (独)農業生物資源研究所 |
研究期間 | 2005~2008 |
研究担当者 |
篠田徹郎 水口智江可 並木俊樹 芳山三千代 |
発行年度 | 2008 |
要約 | コクヌストモドキのKrüppel homolog 1 (Kr-h1 )遺伝子が、幼虫形質を維持するために必須の因子の一つであることを見出し、幼若ホルモン(JH)は、JH受容体候補遺伝子Methoprene tolerant (Met )を介してKr-h1 遺伝子の発現を誘導することで幼虫から蛹への変態を抑制するという、新しいJHの分子作用機構モデルを提唱した。 |
キーワード | 幼若ホルモン、Krüppel homolog 1、コクヌストモドキ、RNAi、変態 |
背景・ねらい |
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成果の内容・特徴 | 1.コクヌストモドキKr-h1 遺伝子の発現パターンは、JH合成の律速酵素であるJHAMT 遺伝子の発現パターンと似ており、体内JH濃度が高いと考えられる幼虫期に高く、JH濃度が低いと考えられる蛹期には発現が認められない。このことから、Kr-h1 遺伝子の発現は、主にJHによって制御されていると予想された。 2.若齢幼虫でRNAiによってJHAMT 遺伝子をノックダウンし、JH合成を抑制するとKr-h1 遺伝子の発現が低下し、これにJHアナログ (JHA)処理を行うと発現が再誘導された。このことから、幼虫期のKr-h1発現がJHによって維持されていることが明らかになった。 3.若齢幼虫においてRNAiによってKr-h1 遺伝子を抑制すると、早熟変態が誘導される(図1A, B)。この時、一部の個体は小型の蛹になるが、大部分の個体は蛹化の途中で発育停止し、最終的に全て死亡する。RNAiを施した個体に、JHA処理を行っても早熟変態は妨げられないことから(図1A)、Kr-h1 はJH合成ではなく、JHシグナル伝達に関わることがわかる。 4.4齢幼虫において、RNAiによってJH受容体候補遺伝子Met発現を抑制すると、Met とともに、Kr-h1 遺伝子の発現も抑制される。一方、Kr-h1RNAiによって、Met発現は抑制されない。したがって、JHシグナル伝達経路において、Met はKr-h1 遺伝子の上流に位置する。 5.上記の結果に基づき、幼虫期における変態抑制に関わるJHシグナリング経路を提唱した(図2)。すなわち、幼虫期においては高濃度のJHが、JH受容体Metを介して幼虫決定因子の一つであるKr-h1発現を誘導するために、幼虫-蛹変態を抑制し、終齢になりJH濃度が低下すると、Kr-h1発現が停止してその変態抑制作用が解除されるために蛹化が起こる。 |
成果の活用面・留意点 | 1.Kr-h1発現量を指標にした JHアゴニスト、アンタゴニストのスクリーニング法開発への応用が期待される。 2.今後は、カイコなど他の昆虫種においても上記のJH分子作用機構モデルが当てはまるかどうかを検証する。 |
カテゴリ | カイコ |