ガラス化冷却・超低温保存したブタ体外成熟・受精卵からの産仔作出

タイトル ガラス化冷却・超低温保存したブタ体外成熟・受精卵からの産仔作出
担当機関 (独)農業生物資源研究所
研究期間 2006~2010
研究担当者 ソムファイ タマス
永井 卓(畜草研)
菊地 和弘
中井 美智子
柏崎 直巳(麻布大)
発行年度 2008
要約 ブタ卵胞卵を体外成熟・受精後に、超遠心により脂肪滴を偏在化させ、可視化した前核が2、3個の胚発生率の高い卵を選抜し、ガラス化冷却し液体窒素中に超低温保存後に、加温(融解)して、発情を同期化した他の雌豚に移植することにより正常な産仔を得た。
キーワード ブタ、体外成熟、体外受精、受精卵、ガラス化冷却、超低温保存、胚移植
背景・ねらい
家畜では精子の超低温保存は比較的容易であるが、卵や初期胚の保存は難しい。ブタでは、発生が進んだ胚盤胞期胚の超低温保存は可能で、2~4細胞期の胚については細胞質内の脂肪滴を顕微操作により除去することで可能となる。しかし未受精卵や受精卵(1細胞期)での報告はない。一方、遺伝・育種資源の保存を促進するためには、顕微操作等の複雑な過程を経ず、卵に損傷を与えない簡便な手法の開発が望まれる。そこで、本研究では、体外成熟・受精卵の脂肪滴を超遠心により偏在化し、ガラス化冷却・超低温保存し、加温後の体外ならびに体内での発生能を確認し、産仔を産出する。
成果の内容・特徴 1.性成熟に達していない雌豚より卵胞卵を回収し体外成熟を行い、成熟した卵を選別し体外受精を行う。受精を開始してから後10時間で、卵を20分間37℃、10,000×g で遠心処理をして脂肪滴を偏在化させ、前核を可視化する。ブタ体外受精では多精子受精が多く、その発生率が低いため、実体顕微鏡下で2ないし3個の前核を有する卵(それぞれ、単精子受精卵ならび軽度の多精子受精卵)を選抜(以下、体外成熟・受精卵と言う)し、以後の実験に使用する(図1)。
2.対照区(耐凍剤で処理せず既報通りに体外胚培養)と耐凍剤対照区(耐凍剤で処理後に対照区と同様に体外胚培養)を比較したところ、培養2日目の卵割率、6日目の胚盤胞率およびその平均細胞数に差はない(表1)。体外成熟・受精卵に対して耐凍剤処理の影響がないことから、以後の実験では耐凍剤処理を行う。
3.従来の鉄と比べ熱伝導度の高いアルミホイルを利用した改良solid surface vitrification(SSV)により体外成熟・受精卵のガラス化冷却を行い、液体窒素中に超低温保存し、加温(37℃、2分)後に体外培養し、胚の発生能を調べた。冷却・超低温保存を行わない体外成熟・受精卵(対照区)と、冷却・超低温保存し加温した体外成熟・受精卵(実験区)の生存率に差はない。一方、卵割率および胚盤胞率は対照区に比べて実験区で有意に減少する。しかし、胚盤胞の平均細胞数には両区で差がない。これらの結果より、体外成熟・受精卵をガラス化冷却・超低温保存し加温すると、その発生能は低下するが、ひとたび発生すれば胚の品質は影響されないことが分かる(表2)。
4.ガラス化冷却・超低温保存し加温した体外成熟・受精卵を他の雌豚5頭に1頭あたり150個移植したところ、3頭から計16頭の生存仔豚(それぞれ、5、2ならびに9頭)が得られた(図2)。仔豚は順調に発育し、繁殖に供することができた。
成果の活用面・留意点 1.ブタ体外成熟・受精卵をガラス化冷却・超低温保存し産仔作出が可能であることを世界で初めて示した。遺伝・育種資源の保全に有用であり、今後、技術の安定化が必要である。
2.更にブタ未受精卵(未成熟卵ならびに成熟卵)の超低温保存法の開発に着手する。未受精卵と精子を別個に超低温保存し、必要時に体外受精・移植を行えるようになれば、遺伝・育種資源の保存・利用という観点から意義深い。
3.未利用資源として卵巣に数多く潜在する原始卵胞(卵)の超低温保存を行う。超低温保存後の卵巣組織片を免疫不全マウスに移植し体内発育させ、発育した卵胞より卵を回収して受精卵や初期胚の作出を目指す。
カテゴリ 育種 繁殖性改善 未利用資源

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