河川水基底流の安定同位体比を用いた湿原湧水の影響圏調査法

タイトル 河川水基底流の安定同位体比を用いた湿原湧水の影響圏調査法
担当機関 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所
研究期間 2003~2007
研究担当者 吉本周平
今泉眞之
石田 聡
土原健雄
発行年度 2007
要約  河川水基底流の水素・酸素の安定同位体比が標高により異なる特性を利用することにより、湧水の影響圏を推定する。この方法を湿原の湧水調査に適用することにより、見かけの流域を越えた広域的な流れを考慮した、湿原湧水の保全すべき地域を特定できる。
キーワード 地下水、涵養域、安定同位体、高度効果
背景・ねらい  2005年に開催されたラムサール条約締約国会議において、日本の湿地20ヶ所が新たに「国際的に重要な湿地」として登録され、湿原水文環境の適正な保全・管理はこれまで以上に大きな課題となってきている。地下水の保全のためには、単に湿原内にある湧水を保全するだけでなく、地下水を涵養している地域、つまり地下水の影響圏を把握する必要がある。しかし、どの範囲を保全すべきかの科学的な根拠づけがなされているとは言い難い。
 従来の影響圏の設定では、地形による流域で設定している。最近、降水中の安定同位体の高度効果を指標とする設定方法が提案されているが、この方法は降水が地面に浸透する前に蒸発の影響を受けるため、実際に涵養された水の高度効果とは異なることが指摘されていた。ここでは、河川の基底流の安定同位体比高度効果を利用する方法を開発するとともに、実証調査として釧路湿原の湧水の涵養域推定に適用した。
成果の内容・特徴
  1. 無降雨期間が2週間となる時期において、河川及び支流河川の基底流の酸素及び水素の安定同位体比δ18O、δD(標準水からの千分率偏差)を測定する。δ18O、δDは低標高から高標高地域に向かうにつれ安定同位体比が小さくなる高度効果を示す(図1)。
  2. 採水地点の安定同位体比は河川上流側からの積分値となるため、採水地点の標高ではなく採水地点より上流側の集水域の平均標高を採用し、流域における適正な高度効果を算定する(図2)。釧路湿原流域の高度効果はそれぞれ、δ18O:-0.23‰/100m、δD:-1.37‰/100mと算定され、湧水のδ18O、δD値より涵養域標高を推定する。
  3. 水素・酸素の安定同位体比の高度効果を用いることにより、地形からみた見かけの流域を越えた広域流動系の地下水の涵養域を推定することが可能である(図3)。涵養域付近は、火山岩と難透水性基盤が分布する千島弧外帯と、湿原の帯水層である釧路層群が最も高標高に分布する千島弧内帯を区分する境界線付近、すなわち釧路-根室地下水盆の端に相当しており、推定された涵養域は水理地質構造と整合的である。
  4. 推定涵養域からの流動距離と地下水滞留時間から帯水層の平均的な透水係数を算出し、揚水試験結果と比較することにより、推定された涵養域の妥当性を検証可能である。放射性同位体であるトリチウム濃度は、深度が大きくなるほど低濃度になる流出域の特徴を示し(図4)、湧水を形成する地下水の滞留時間は50年以上と推定される。得られた滞留時間、推定涵養域からの流動距離から計算された帯水層の平均的な透水係数(3.2×10-4m/s)は揚水試験から得られた値とほぼ一致する。
成果の活用面・留意点
  1. 従来の地下水涵養機能の検討では、水田から地下水面に直接達した場合のみを検討していたが、本手法を使うことにより、山地や台地の水田から低平農地までの広域的な地下水涵養機能の検討が可能になる。
  2. 基底流の安定同位体比を測定するため、無降雨期間後の採水が必要である。
図表1 228172-1.gif
図表2 228172-2.gif
図表3 228172-3.gif
図表4 228172-4.gif
カテゴリ 水田

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