タイトル |
GPSによる地すべり移動量観測の精度向上のための気象補正方法 |
担当機関 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所 |
研究期間 |
2006~2008 |
研究担当者 |
井上敬資
古谷 保
山田康晴
川本 治
中里裕臣
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発行年度 |
2008 |
要約 |
基準点との高度差が大きい点でのGPSによる地すべり移動量観測では、現地もしくは近傍観測所の気象データを利用することにより、大気中の水分量の季節変化に起因する誤差を補正することができ、移動状況把握や対策工の効果確認の精度を向上できる。
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キーワード |
GPS、地すべり、移動量観測、気象補正
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背景・ねらい |
斜面を対象とするGPSによる地すべり移動量観測では、基準点と観測点との距離が小さくても、両点間の標高差が大きい場合には上空大気の水分量の違いにより衛星からの信号の伝搬遅延が生じる。その結果、標高差100m程度から測位結果の上下成分に年間数cmにおよぶ年周変化が生じることが明らかにされており、地すべりの移動状況把握や対策工の効果確認を精度良く行うためにはこのみかけの変化の影響を低減する必要がある。 このため、GPS基線解析に組み込む現地もしくは近傍気象観測所の気象データによる標準大気モデルの適用性を検討し、みかけの変動を低減する気象補正方法を提案する。
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成果の内容・特徴 |
- 試験地では同一基準点に対し、基線長1122m、基準点との標高差約0mの観測点Aと基線長1187m、基準点との標高差約+200mの観測点Bがそれぞれ別の地すべりブロックに位置する。図1(a)、図3(a)は両観測点における2004年4月から2年間の一周波型GPS受信機による移動量観測結果である。両地点共に北東方向への水平移動と、沈下傾向を示す。観測点Bでは特に上下成分において、夏季に4cm沈下する顕著な年周変化が認められる。
- GPS基線解析では、一般に気圧、気温、相対湿度などの気象データを一定値とした標準大気モデルが組み込まれており,気象データに基づく気象補正には乾燥大気に対応するdry項と大気中の水蒸気成分に対応するwet項が独立しているModified Hopfield標準大気モデル(図2)が適当であることが知られている。ここでは標高差の異なる基線を対象に,現地近傍および現地の気象データを入力する手法の有効性を検証する。
- 図1(b)は観測点Aデータに、高知地方気象台(試験地からの距離約40km)の気圧、気温、相対湿度データによりdry項とwet項の両方を考慮する補正を行った結果である。基準点と観測点の高度差のない観測点Aでは、図1(a)と比較して気象補正による観測結果の変化は認められず、気象補正が不要であることがわかる。
- 図3(b)は観測点Bデータに高知地方気象台データによるdry項とwet項の補正を行った結果であり、図3(a)にみられた振幅4cmに及ぶ夏季の沈下が解消されているが、2005年の夏季にはやや沈下傾向が残っている。図3(c)は観測点Bデータにwet項のみの補正を行ったもので、図3(b)よりも夏季の沈下傾向が解消されている。
- 図4 は2008年の観測点Bデータに対し、高知地方気象台データと試験地基準点で観測した気象データによるwet項のみの補正を行った結果で、両者は同等の結果を示す。
これらの結果により、GPSによる地すべり移動量観測においては、現地もしくは近傍気象観測所の気象データ(気温、相対湿度)をModified Hopfield標準大気モデルのwet項に入力することで、対流圏遅延による上下成分の年周変化を補正することができる。
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成果の活用面・留意点 |
- 本成果で提案する気象補正方法は、国営、補助の農地地すべり対策事業現場への適用が可能である。
現地近傍(ここでは距離40km)の気象観測所データは、現地観測による気象データと補正効果を比較の上利用することが望ましい。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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図表4 |
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カテゴリ |
乾燥
GPS
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