タイトル |
2008年に西日本で多発したイネ縞葉枯病はヒメトビウンカの海外飛来で起こった |
担当機関 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター |
研究期間 |
2008~2009 |
研究担当者 |
大塚 彰
松村正哉
真田幸代
竹内博昭
渡邊朋也
大津礼子
井上栄明
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発行年度 |
2009 |
要約 |
2008年6月に西日本に飛来してイネ縞葉枯れ病を多発させたヒメトビウンカは、イミダクロプリドに対して感受性が低下し、保毒虫率が高いなど土着個体群の特性と明確に異なることから、中国江蘇省から海外飛来したと推定される。
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キーワード |
ヒメトビウンカ、海外飛来、イネ縞葉枯病、薬剤感受性、後退軌道解析
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背景・ねらい |
ヒメトビウンカは、イネ縞葉枯病を媒介するイネの重要害虫である。東シナ海を越えて毎年飛来する長距離移動性のトビイロウンカなどと異なり、ヒメトビウンカは国内で越冬可能であり、土着個体群がイネ縞葉枯病の発生原因と考えられてきた。ところが、強い西風が吹いた2008年6月5日に、九州を中心とした西日本でヒメトビウンカが多数捕獲され、その後長崎県、山口県、島根県などでイネ縞葉枯病が多発した。そこで、この多飛来が海外飛来であり、イネ縞葉枯病の発生原因となったことを明らかにする。これまでヒメトビウンカの海外飛来と国内のイネ縞葉枯病の発生との関連を示唆した報告はあるが、この因果関係については検証されていない。
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成果の内容・特徴 |
- 2008年6月5日に長崎県と鹿児島県のトラップで多数のヒメトビウンカが捕獲された。後退軌道解析から推定される飛来源は、中国江蘇省である(図1)。順方向の移動シミュレーションから、ウンカは九州西岸および中国地方日本海側に到達する(図2)。
- 飛来直後に採集した個体群(飛来個体群)は、イミダクロプリドに感受性低下し、フィプロニルには感受性低下はみられない(図3)。この特性は、江蘇省の個体群と同様である。一方、飛来前に採集した日本の土着個体群は、イミダクロプリドには感受性低下はみられず、フィプロニルに感受性低下していることから、飛来個体群と薬剤感受性が異なる。
- 江蘇省では2000年以降ヒメトビウンカとイネ縞葉枯病が大発生しており、飛来源となりうる。6月初め前後は、小麦の収穫時期で、越冬世代の移出時期にあたる。
- 飛来個体群のイネ縞葉枯病ウイルス保毒虫率は9.2~11.5%であり、江蘇省の同時期の保毒虫率(17.2%)と同様に高く、日本の土着個体群(2.4~4.0%)に比べて高い。多飛来があった九州西岸と中国地方日本海側(山口県、島根県)では、飛来後にイネ縞葉枯病の多発生が起こっている(データ略)。
- 以上から、2008年に西日本で多発したイネ縞葉枯病は、ヒメトビウンカが中国江蘇省から海外飛来して起こったと推定される。
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成果の活用面・留意点 |
- この知見は、6月初め前後のヒメトビウンカの発生予察と防除対策に活用できる。
- 飛来源ではヒメトビウンカの多発生が続いており、移動に適した気象条件になれば、今後も6月初め前後に海外飛来が起こる可能性があり、注意する必要がある。
- 飛来個体群と土着個体群とで薬剤感受性が異なり、飛来個体群は日本で越冬可能でかつ土着個体群との間で交配可能であることから、飛来があった地域では、今後薬剤感受性が変化する可能性があり、箱施用薬剤の選択に注意が必要である。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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カテゴリ |
病害虫
害虫
小麦
縞葉枯病
ヒメトビウンカ
防除
薬剤
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