タイトル |
カメムシ類の新規幼若ホルモン(JHSB3)の同定 |
担当機関 |
(独)農業生物資源研究所 |
研究期間 |
2007~2009 |
研究担当者 |
小滝豊美
品田哲郎
貝原加奈子
大船泰史
沼田英治
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発行年度 |
2009 |
要約 |
果樹の重要害虫であるチャバネアオカメムシから、新規な構造を持つ幼若ホルモン(JH)を同定し、JHSB3と名付けた。カメムシに特異的なJHの同定は世界初であり、カメムシ目害虫選択的な昆虫制御剤開発の重要な手がかりとなる。
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キーワード |
幼若ホルモン・カメムシ目・チャバネアオカメムシ・昆虫制御剤
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背景・ねらい |
幼若ホルモン(JH)は、昆虫の変態や生殖の制御に関与する主要なホルモンの1つであり、分類群により異なる構造を持つ。このホルモンは油に溶けやすく、体表から染み込んで効果を示すことから、制御剤として利用可能であり、実際JHをもとにした昆虫制御剤が市販されている。カメムシの仲間(カメムシ目)のJHは、既知のJHと異なることが以前から知られていたものの、化学構造は長い間分かっていなかった。カメムシ目にはチャバネアオカメムシなどの果樹害虫や斑点米の原因となるカスミカメムシ類など多くの重要害虫が含まれていることから、カメムシ目に特異的なJH生合成系やJH情報伝達系を標的とした制御剤開発の基盤として、チャバネアオカメムシを材料にJHの同定を行った。
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成果の内容・特徴 |
- 果樹の重要害虫であるチャバネアオカメムシ(図1)の成虫体内からJHを産生する内分泌器官であるアラタ体を取り出して培養し、培地中に放出されたJHを高分解能質量分析によって分析し、C16H26O4の組成式を持つ化合物であると推定した。
- この結果や先行研究の知見に基づき、まず、可能性のある構造を持つ化合物の混合物を合成した。この混合物を液体クロマトグラフィー(HPLC)で分画し、各画分のJH活性を生物検定(図1)により評価して、JH活性を示す2画分を見出した。
- これら2つの活性画分に含まれる化合物は、核磁気共鳴(NMR)を用いた分析によって、ある化合物の2つの立体異性体であると推定した。この化合物には4つの立体異性体(図2)が存在するが、NMRでそれらを判別することはできなかった。
- 4つの立体異性体を合成し、HPLCで分析した結果、生物検定でJH活性を示した2つの画分は化合物1および化合物2と一致した。さらにアラタ体の産生物が、化合物1または化合物2のどちらに当たるかをガスクロマトグラフィー質量分析計で比較した結果、アラタ体産生物は、化合物2であることを確認した(図3)。
- 合成した標準品を用いて生物検定を行ったところ、この化合物2は既知のJHであるJHⅢ(図2)に比べてはるかに高い幼若ホルモン活性を示し(図4)、幼虫から成虫への変態を強く抑えて、幼虫-成虫中間体(図1C)を作り出した。この中間体は産卵することなく、やがて死亡した。
- このようにして明らかにしたチャバネアオカメムシのJHは、エポキシ環を2個持ち、それらが二重結合を飛び越えるように(=skipped)離れて位置している点で、他の昆虫で既に知られているJHとは異なる、新しいものであった。構造の特徴からこのJHをJuvenile Hormone Ⅲ Skipped Bisepoxide(JHSB3)と名付けた。
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成果の活用面・留意点 |
- JHの生合成経路や代謝経路、JH活性に関わるシグナル伝達経路の中で作用するJHSB3に特有な酵素や受容体を標的としたカメムシ類にのみ効果を示す制御剤の開発が期待される。
- JHSB3の構造を改変することにより、JH活性による変態のかく乱等による殺虫活性や殺卵活性をカメムシ類のみに示し、かつ他の昆虫に対して影響の少ない昆虫制御剤の開発が期待される。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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図表4 |
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カテゴリ |
害虫
カメムシ
斑点米
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