タイトル |
水田内の流況が濁質除去に及ぼす効果 |
担当機関 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所 |
研究期間 |
2010~2010 |
研究担当者 |
樽屋啓之
中田 達
向井章恵
田中良和
木村幸夫
横井久善
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発行年度 |
2010 |
要約 |
灌漑用水に含まれる濁質を、水田を利用して効率的に除去することができる。水田内での流況は濁質除去に大きく影響し、静水中よりも動水中で除去の効果は大きい。また、植生は除去効率を増加させる。
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キーワード |
水田、濁質除去、除去速度、流況効果
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背景・ねらい |
用排水系が整備された水田では水管理の自由度が高い。特に、未利用水田や非灌漑期での水田を用いた栄養塩の除去は実現可能性も高く、同時に濁質の除去も模索されている。本研究は、水田における流況と濁質除去速度との関係を明らかにし、用水路システムと水田のオペレーションによる濁質除去の技術開発を目的とする。流況の効果を、窒素やリンの除去速度に関しての先行研究と比較して解明し、その正当性を示す。
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成果の内容・特徴 |
- 水田区画(10m×10m、愛知県農試内)で、灌漑・非灌漑期にわたり6回の濁質除去試験を行い、i) 動水時と静水時の除去 ii) 高速流速での除去(波板設置) iii) 植生の効果 を調べる。SS(水田周辺の排水路に堆積した土:300mg/L)、N(KNO3溶液:10、20mgN/L)、P(KH2PO4溶液:5mgP/L)を混合した懸濁液を試料として用い、水口からの流量は0.35 L/sとし、水深は5cmとする。
- 濁質や栄養塩の除去を、水中から土表面へ移動する現象として境膜モデルで表現する(図1-a)。これは完全混合状態の水中(水深Hにわたり一様な濃度C)から薄い境膜(拡散層、沈降層)を通して濁質が土表面(濃度Cs=0と仮定)へ移動するモデルである。微小時間(Δt)あたり、単位面積あたりに除去される濁質量(-HΔC)は濃度Cに比例し、-HΔC=KCΔtと表せる(式1)。ここでKは除去速度定数である。
- 各地点のSSの流出濃度はある時間がたつと定常状態になる(図2-a)。式1を解くと、水田内の各地点での定常SS濃度の自然対数ln (C) と平均流達時間tは-(K/H) を傾きとする直線関係となる(ln(C)=-(K/H)t+const.:図2-b)。平均流達時間tは濁水がある地点に到達するまでの時間であり、電導度の流出曲線から別途求める。動水時の除去速度を表すK/Hは0.17~0.39(h-1)となり、流況によって除去速度が異なる。
- 濁水供給中(動水時)の除去速度は停水後(静水時)の除去速度より3.3倍程度大きい(図3)。T-N(2.2倍)やT-P(2.6倍)でも同様である。静止状態では完全混合条件が破れ、拡散速度が遅くなるため、除去速度は小さくなる。SSの場合は沈降しにくい粒子が残される要因も重なる。また、高速の流速(波板設置)では除去速度が小さくなる。死水領域が広がるためであろう。
- T-N、T-Pの速度定数もSSと同様にして求まる(図4)。速度定数はSSより大きく変動するが、既報の値も同程度に大きく変化している。植生の効果は静水時に顕著で、除去速度がSS:2.0倍、T-N:6.5倍、T-P:2.1倍と増加する。植生は流況を変えるだけでなく吸着(吸収)面積を増やしている。ただし、この倍率は温度の効果も含む。
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成果の活用面・留意点 |
- 流入する濁質の性質によって沈降試験(静水中の除去速度測定)の結果は異なり、流況によりSSで3倍、T-NやT-Pで2~3倍になることを考慮して現場に適用する。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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図表4 |
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カテゴリ |
水田
水管理
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