タイトル |
窒素の有効利用に重要な役割を担うイネ独自の代謝経路の発見 |
担当機関 |
(独)農業生物資源研究所 |
研究期間 |
2006~2010 |
研究担当者 |
宮尾光恵
増本千都
宮澤真一
福田琢哉
斉藤和季
草野 都
深山 浩
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発行年度 |
2010 |
要約 |
イネは緑葉で働く特有の酵素をもつことを見いだした。本酵素は水田のような湛水環境に適応するための酵素であり、肥料三要素のひとつである窒素の利用に重要な役割を担うことを明らかにした。
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キーワード |
イネ、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、窒素同化、有機酸
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背景・ねらい |
植物は、光合成で大気中の二酸化炭素を固定し、土壌から吸収した窒素を利用して、様々な有機物を作りだす。これらの基本的な代謝のしくみは、ごく一部の例外を除いて、すべての植物に共通と考えられていた。ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)は基本代謝に関わる酵素で、細菌、原生動物、すべての光合成生物に広く存在するが、これまでに知られていたPEPCはすべて細胞質で働く細胞質型だった。イネゲノムの遺伝子情報から基本代謝に関連する遺伝子を網羅的に調べたところ、光合成の場である葉緑体で働くPEPC(葉緑体型PEPC)をコードすると予想される新規の遺伝子を見いだした。そこで、イネ特有の本遺伝子の機能を解析した。
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成果の内容・特徴 |
- 本遺伝子が、緑葉の葉緑体で働く活性型のPEPCをコードすることを確認した。
- 葉緑体型PEPC遺伝子の働きを人為的に抑制し、酵素の生産量を減少させると、イネの生育が阻害された。生育阻害の程度は主要栄養素である窒素源によって異なり、窒素源が硝酸の場合は生育はあまり阻害されなかったが、アンモニアでは生育が大きく阻害された(図1)。
- アンモニアで育てたイネの葉に含まれる代謝物質を網羅的に調べたところ、遺伝子の働きを抑制したイネではリンゴ酸などの有機酸類(炭素化合物)が減少し、その結果、有機酸を使って窒素を有機物に取り込む反応(窒素同化反応)が抑えられ、イネの生育が阻害されることがわかった。この結果から、イネは葉緑体型PEPCを経由する独自の有機酸合成経路をもつことが示された(図2)。
- 肥料として土壌に投入された窒素は、畑地では硝酸に、水田のような湛水環境ではアンモニアになる。イネを含むイネ属の植物は湛水環境での生育に適応しており、栽培イネ以外にも、野生イネが葉緑体型PEPCをもつことがわかった。一方、畑作物であるトウモロコシやオオムギ、モデル植物であるシロイヌナズナでは、葉緑体型PEPC遺伝子は見いだされなかった。このことから、葉緑体型PEPCは、主要窒素源がアンモニアである湛水環境に適応するための酵素であることが示された。
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成果の活用面・留意点 |
- 湛水環境に適応したイネは、独自の有機酸合成経路をもつことがわかった。これは、光合成様式、共生窒素固定を除いて、基本代謝の多様性を示す初めての例である。
- 植物の生産性は、光合成能だけではなく、窒素を有機物に取り込む能力(窒素同化能)にも大きく依存している。窒素肥料の投入量が作物の栄養状態ひいては生産性を決定するとされているが、イネでは、炭素化合物である有機酸の合成量が窒素の取り込みを制限することがわかった。
- 葉緑体型PEPCは、光合成による二酸化炭素の固定と窒素の取り込みという、生産性に密接に関わるふたつの過程をつなぐ重要な酵素と考えられ、本酵素の遺伝子を改良することで、イネの生産性の向上に新たな道が拓かれると期待される。
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図表1 |
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図表2 |
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カテゴリ |
肥料
水田
とうもろこし
りんご
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