タイトル | 14.熱ストレスによるトマト果実の成熟制御 |
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担当機関 | 食品総合研究所 |
研究期間 | 1997~2000 |
研究担当者 |
岩橋由美子 細田 浩 |
発行年度 | 1999 |
要約 | トマト緑熟果実を24時間42℃で保存後室温に戻すと、その後の成熟が5日間ほど遅れる成熟遅延効果が観察される。エチレン生成能の低下はこの原因ではなく、果実中の糖代謝や軟化に関与するInvertaseや活性酸素の除去に関与するAscorbate peroxidase等の加熱処理中の変動が、トマト果実の成熟遅延の一因であることが示唆される。 |
背景・ねらい | トマト果実の成熟は、エチレン生成系をはじめ多種類の酵素が複雑に関係して進行しているものと考えられている。一方、植物はストレス環境にさらされると正常な代謝を停止し,受けたストレスに応答する高度な機能を備えている。このためストレス応答反応を利用して果実等の成熟関連タンパク質の発現を制御できる可能性がある。そこで、トマト果実におけるストレスタンパク質の機能を解析し、さらに成熟関連遺伝子及びタンパク質の発現に与える影響を調べ、ストレス反応を利用した成熟制御技術の開発のための基礎的知見を得る。 |
成果の内容・特徴 | 1.熱処理(42℃、24時間)により、トマト果実の成熟は5日程度遅延した(図1)。加熱中エチレン生成量は減少したが、加熱終了後すみやかに回復し(図2)、成熟の遅延はエチレン生成能の低下によるものではないことが明らかになった。 2.熱処理をしたトマト果実内部の水の動きをNMRマイクロイメージングで解析したところ、加熱による果実内部の水の緩和時間の低下がみられ(図3)、熱によって変性したタンパク質等の影響を受けて果実内部の水の構造化が進み、それに伴う基質の拡散速度の低下等に起因する代謝抑制が加熱終了後も持続すると考えられた。 3.熱処理して増加した果肉部分のタンパク質では、アミノ酸のN-末端の配列解析よりMitochondria 22kD heat shock protein、Ribonuclease、Vacuole invertase等が、また、熱処理により減少するタンパク質としてはPolygalacturonase、Superoxide dismutase、Protein disulfide isomerase等が同定された(表1)。また、無処理区でN-末端配列が同じで等電点のみが異なる2種類のAscorbate peroxidaseが検出されたが、加熱処理によってその存在割合が変化し、加熱によるタンパク質の修飾割合の変化が予測された(図4)。 |
成果の活用面・留意点 | 加熱により成熟・老化が遅延する事は多くの果実等で知られているが、その機構は明らかになっていない。熱によって誘導される或いは減少するタンパク質を同定、解析することにより、加熱による成熟・老化の遅延効果機構が明らかになる。さらに、加熱により影響を受ける成熟関連タンパク質が解明されれば、成熟・老化を制御できる果実の作出及び高品質果実の流通技術の開発に活用できる。 |
図表1 | |
カテゴリ | トマト |