水田で生育中のイネにおける体内時計の働きを解明

タイトル 水田で生育中のイネにおける体内時計の働きを解明
担当機関 (独)農業生物資源研究所
研究期間 2008~2012
研究担当者 井澤毅
三原基広
Gupta Meenu
伊藤博紀
本山律子
永野惇
矢野昌裕
長村吉晃
鈴木雄二
牧野周
澤田有司
平井優美
発行年度 2011
要約 出穂期を指標に体内時計のイネ突然変異体を単離同定し、実験室環境ではなく実際に圃場に栽培して、全遺伝子発現解析、一次代謝産物・二次代謝産物解析、光合成能力解析、収量性関連形質解析を行い、作物の体内時計の圃場での役割を明らかにした。
キーワード 圃場環境、イネ、トランスクリプトーム、メタボローム、体内時計、開花期
背景・ねらい 分子遺伝学的に同定した有用遺伝子を農業に利用するには、表現形質の評価を圃場環境で行うことが不可欠である。しかしながら、これまでの突然変異体解析や生理学的解析は、実験の再現性や科学的な解釈に優れた実験室環境での測定が中心であるため、結果をそのまま圃場環境に応用しにくい現状がある。そこで、得られた知見を効率的に応用研究につなげるため、日本の主要作物であるイネの体内時計変異体をつくばの圃場で栽培し、トランスクリプトーム解析(網羅的遺伝子発現解析)、メタボローム解析(網羅的一次代謝・二次代謝産物解析)、光合成能力や収量性関連形質の解析等を分子生物学的かつ農学的に行い、圃場で栽培されているイネにおける体内時計の役割の解明を目指した。
成果の内容・特徴
  1. 生理的な光信号が伝わらないため出穂期(開花期)が体内時計の影響を受けやすいイネ系統に変異をかけ、出穂期が変化する突然変異体を単離し、その変異体がイネ体内時計遺伝子OsGIGANTEAOsGI)の欠損変異体(osgi変異体)であることを証明した。進化的に同一起源のシロイヌナズナGIGANTEA遺伝子も体内時計遺伝子のひとつとして知られているが、役割は異なっている。
  2. osgi変異体をつくば市の圃場で栽培した。実験室環境では短日条件で明確に出穂が遅れるところ、圃場栽培では出穂期はほとんど変化せず、長日条件栽培に近いと推察された。
  3. イネ葉の単位面積当たりの光合成能(炭酸ガス固定能)は、osgi変異で変化しなかった。
  4. osgi変異では、糖分、一穂粒数、穂数が増加したが、一粒重が減少し、収量には変化が認められなかった。
  5. 5.2時間ごとにサンプリングして日周変動を調査する大規模トランスクリプトーム解析で、イネ遺伝子27,201個の挙動を確認した(図1)。その結果、半数以上の遺伝子発現がOsGIの影響を受けた。これらの遺伝子発現の明確な日周変動は、単なる外部環境の日周変動への追従ではなく、体内時計で制御されることが示された。一方で、メタボローム解析からは、一次代謝産物の極端な変化は確認できなかった。
  6. 移植日を変えた栽培では、osgi変異体で明確に稔実率が下がったことから、この変異体は、栽培環境変動に弱くなっていることが示唆された(図2)。
  7. これまで、体内時計は、光合成や収量性に深くかかわると信じられてきたが、圃場環境で、外部環境変動(日照や気温変動)があれば、光合成と収量性は体内時計による転写制御の欠損に対して、頑健に構築されていること、ただし、最適な栽培環境でないと、体内時計欠損は収量性を落とすことが明らかとなった。
成果の活用面・留意点
  1. 広い至適栽培地域を持つ品種、経年気象変動に強い品種の育成には、体内リズムのモニターを指標に加えていくべきであり、そのための評価法の開発を進める必要がある。
  2. 体内リズムの維持コストをなくしても収量性に影響がないので、植物工場等栽培環境が安定な場合、変異体の葉で増加した糖をうまく転流させることで、収量増を期待できる。
  3. 実験室環境だけでの研究成果に対しては慎重な評価が必要であり、今後は、圃場でのパフォーマンスをできる限り同時に解析する方向の研究の推進が望まれる。
図表1 235255-1.jpg
図表2 235255-2.jpg
研究内容 http://www.nias.affrc.go.jp/seika/nias/h23/nias02306.htm
カテゴリ コスト 水田 評価法 品種 メタボローム解析

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