タイトル |
植物を病原菌から保護するバイオコントロール細菌の抗菌性制御因子の同定 |
担当機関 |
(独)農業生物資源研究所 |
研究期間 |
2010~2013 |
研究担当者 |
竹内香純
山田小須弥
Dieter Haas
土屋渉
野田なほみ
鈴木倫太郎
山崎俊正
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発行年度 |
2013 |
要約 |
バイオコントロール細菌の植物保護能力に関わる抗菌性物質の生産制御因子として、グアノシン3’,5’-ビス二リン酸(ppGpp)とLonプロテアーゼを同定した。ppGppは、抗菌性物質の生産を正に、Lonプロテアーゼは負に制御する。
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キーワード |
植物保護、バイオコントロール細菌、抗菌性、土壌病害、環境保全型農業
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背景・ねらい |
近年、環境への配慮などを背景に、国内外を問わず微生物農薬に対する期待が高まっている。しかし微生物農薬は、化学農薬と比較して効果が持続しないなど生物ならではの問題点も多く、普及率の向上を目指すためには用いる微生物の性質について理解を深める必要がある。植物を病原菌から保護する効果をもつ細菌は「バイオコントロール細菌」とよばれる。現在知られているバイオコントロール細菌は自然界からのスクリーニングによって選抜されてきたものであり、なぜ植物保護能力を発揮するのかについては不明な点が多い。本研究は、土壌病害を抑制するバイオコントロール細菌のモデル系統であるPseudomonas fluorescens CHA0株を対象に、本細菌が二次代謝産物として生産する抗菌性物質の生産制御機構を解明し、本細菌による植物保護を効率よく行うために必要な基礎的知見を得るとともに、それらを実際の作物保護へ応用することを目的とする。
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成果の内容・特徴 |
- P. fluorescens CHA0株の抗菌性物質の生産は、GacS/GacAタンパク質とその下流の小分子RNAにより調節される(図1)。このシグナル伝達系に関与する菌体内の物質を探索するため、gacA変異株とその親株である野生型株のメタボローム解析を行い、その結果を比較した。野生型株と変異株の間で蓄積量に違いのみられた物質のうち、最も差が顕著であったのはグアノシン3’,5’-ビス二リン酸 (ppGpp)であった。ppGppは細菌のシグナル伝達物質の一種であることから、ppGppのP. fluorescens CHA0株の抗菌性への関与について検討した。ppGppの合成や分解に関わる遺伝子の欠損変異株を用いて解析した結果、ppGppは当該シグナル伝達系を正に制御しており、さらにppGppの蓄積はシグナル伝達系によって負に制御されていることが示唆された。
- ppGppを合成できない変異株と野生型株の性質を比較したところ、枯草菌(Bacillus subtilis)に対する抗菌性(図2、左)、土壌病害からの植物保護能力、根圏への定着能のいずれもが、野生型株に比べて変異株の方で低かった。このことから、ppGppは本細菌によるバイオコントロールにおいて重要な役割を果たしていることが示唆された。
- 小分子RNAの量が増え、翻訳リプレッサーと結合すると、結果として抗菌性物質の生産が上昇すると考えられる(図1)。そこで、小分子RNAの発現が上昇する変異株を選抜し解析したところ、ATP依存型プロテアーゼであるLonをコードする遺伝子に変異が生じていた。Lon欠損変異株(Δlon)では、GacAタンパク質の蓄積レベルが野生型株より高く、Lonはシグナル伝達系を負に制御する因子であると考えられた。
- 枯草菌および植物病原糸状菌Fusarium oxysporumのいずれに対する抗菌性も、Δlon株の方が野生型株より強かった(図2、右)。
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成果の活用面・留意点 |
- 抗菌性物質生産のシグナル伝達系の制御因子の改変は抗菌性を高める上で有効である。
- 実際の植物保護効果には、抗菌性だけでなく根圏への定着能など他の要素も影響するため、それらも考慮する必要がある。また、植物保護効果を高めるためには、当該シグナル伝達系に正に作用する物質を土壌に添加する方法も有効であると期待される。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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図表4 |
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研究内容 |
http://www.nias.affrc.go.jp/seika/nias/h25/nias02508.html
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カテゴリ |
病害虫
農薬
メタボローム解析
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