環境同位体を用いた閉鎖性湖沼の蒸発及び地下水流出割合の推定法

タイトル 環境同位体を用いた閉鎖性湖沼の蒸発及び地下水流出割合の推定法
担当機関 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所
研究期間 2011~2013
研究担当者 土原健雄
石田聡
白旗克志
吉本周平
発行年度 2013
要約 環境同位体を指標として用いることで、地下水流入がない閉鎖性湖沼における降水供給に対する蒸発と地下水流出の割合を推定する手法である。水面面積・水深といった湖沼形状により異なる湖沼ごとの蒸発の影響、地下水流出の割合の把握が可能である。
キーワード 環境同位体、湖沼、蒸発、地下水流出、地下水流入
背景・ねらい 水・溶質の循環の一部を構成する湖沼は、帯水層との接続状況により涵養湖・通過湖・流出湖に分類される。地表流出入がない閉鎖性湖沼で、特に地下水流入もない場合、涵養湖として地下水を流出させる一方で、湖沼の水文環境は下流側の排水事業等による地下水位低下の影響を大きく受けるため、湖沼の保全のためにはその水文特性を正確に把握する必要がある。そこでの水文特性の把握には、三次元的に観測機器を設置する方法もあるが、経費の面で実用的ではなく、また限られた観測データしか得られない場合は複雑な水文過程の説明には適さない。ここでは、指標として環境同位体(酸素・水素安定同位体比、放射性同位体ラドン)を用いることで、地下水流入がない閉鎖性湖沼における降水供給に対する蒸発の割合、地下水流出の割合を推定する手法を提案する。
成果の内容・特徴
  1. 地表水に含まれず地下水中に多く含まれる放射性同位体ラドンを用いて地形・地質からの推定に拠らずに湖沼への地下水流入の有無を判別する。地下水流入のない閉鎖性湖沼では簡略化された水収支式及び水素・酸素安定同位体比収支式から、湖沼への降水供給に対する蒸発の割合(r)、地下水流出の割合(1-r)を求めることができる(図1)。
  2. 北海道の沿岸部に位置する閉鎖性湖沼群(図4)に適用した場合、酸素安定同位体比(δ18O)と水素安定同位体比(δD)の関係(図2)において、降水を起源とした地表水や地下水は一般的に傾き8程度の線(天水線)に沿って分布するが、湖水の同位体比は蒸発の影響により変化し、異なる傾きの線(蒸発線)に沿って高い値を示す。
  3. 湖沼はラドン濃度分布から地下水流入がないことが示され、降水によって涵養される閉鎖性湖沼であることが把握できる。降水供給に対する蒸発の割合は、図1のとして14.4~71.9%と推定され、湖沼によって蒸発の影響は異なる。
  4. 水深に対して水面面積が大きい湖沼は蒸発の割合が大きく、水深の大きい湖沼は蒸発の割合が小さくなる傾向にある(図3)。例えば、水面面積が同程度の湖沼L2、L4、L6では水深が大きくなるほど蒸発の割合が小さくなる。ただし、水面を浮葉植物に覆われ蒸発が抑制された湖沼L1は水面面積に比して蒸発の影響は小さい。
  5. 湖沼群への降水供給に対する地下水流出の割合は図1の1-r として推定され(図4)、涵養湖として地下水を流出する割合を推定することが可能である。
成果の活用面・留意点
  1. 環境同位体を指標とした継続的なモニタリングを実施することで、湖沼ごとの蒸発・地下水流出の変化を把握することが可能であり、湖沼に隣接する農地の用排水管理の影響評価、基盤整備等事業実施時の環境影響評価の指標として活用できる。
  2. ここでは湖沼の水・同位体比収支が定常状態と仮定した算出を行っているため、極端な降雨等により湖水面が一時的に上昇するなどの定常状態とみなせない時期を避けた調査が必要である。
図表1 236617-1.jpg
図表2 236617-2.jpg
図表3 236617-3.jpg
図表4 236617-4.jpg
研究内容 http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/nkk/2013/nkk13_s17.html
カテゴリ 水管理 モニタリング

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