絶滅危惧種ワダツミノキの薬用成分含量の解明と増殖方法の開発

タイトル 絶滅危惧種ワダツミノキの薬用成分含量の解明と増殖方法の開発
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 石井 克明
谷口 亨
河村 文郎
尾坂 尚紀
発行年度 2014
要約 鹿児島県奄美大島に自生する小高木であるワダツミノキは抗がん剤の原料成分を含有し、その含有率には個体により大きな差があることを明らかにしました。また、苗木生産のための組織培養による増殖方法を開発しました。
背景・ねらい 2004 年に新種として発表されたワダツミノキは鹿児島県奄美大島に自生する小高木であり、絶滅危惧種として分類されています。本種には、がん化学療法に使用される抗がん剤の原料成分であるカンプトテシンが含まれ、その含有率は個体間での変異が大きいことを見出しました。また、組織培養によるクローン苗木生産の方法を開発しました。これらの成果は、絶滅危惧種の保全に活用可能であるだけでなく、抗がん剤原料成分の含有率の高い個体を選抜し、そのクローン苗を栽培してカンプトテシンを効率的に生産することが可能となります。
成果の内容・特徴

研究の背景

ワダツミノキは鹿児島県奄美大島に自生する高さ10m程度になる小高木で(図1)、2004 年に新種として発表されました。確認されている個体数は20 本程度しかなく、環境省のレッドリストでは絶滅の危険性が極めて高い絶滅危惧IA に分類されています。近縁のクサミズキにはアルカロイドの一種であるカンプトテシンが含まれます。カンプトテシンには抗がん活性があり、がん化学療法に用いられる抗がん剤の原料となっています。このことより、ワダツミノキにもカンプトテシンが含まれると予想されますが、その含有率の詳細については報告されていません。そこで本研究では、ワダツミノキのカンプトテシン含量を調べました。また、ワダツミノキの増殖方法も明らかでないことより、クローン苗木の生産のために組織培養による増殖を検討しました。

薬用成分カンプトテシンの含有率

奄美大島に自生する個体と実生苗木の葉の抽出物を高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、カンプトテシンが含まれることが明らかになりました。また、小枝の部位別の含有率を定量したところ、芽に近い部位ほど含有率が高く、先端から6cm 程度で含有率が安定することが示唆されました(図2)。さらに、3 母樹由来の3年生実生苗13 個体の11 月に採取した茎におけるカンプトテシンの含有率を調査したところ、最も含有率の高い個体と最も低い個体では含有率に8 倍程度の差がありました(図3)。

組織培養による増殖方法の開発

組織培養とは、茎や葉など植物組織の小片を植物の成育に必要な栄養分を含む培地で人工的に培養して植物体を再生させる技術であり、苗の生産などに利用できます。
ワダツミノキの茎頂を培養瓶で培養し、小さな枝であるシュートを誘導しました。次にシュートを発根させ、植物体としました。これを培養瓶から出して土を入れたポットに移植して、外気に慣らすための順化行程を経てクローン苗木を作ることができました(図4)。この方法によれば培養瓶内のシュート1本から1年で25 本程度の苗木を作ることが可能と考えられます。

成果の活用

本研究で開発した組織培養による増殖技術は、絶滅危惧種であるワダツミノキの保全に活用することができます。また、抗がん剤の原料成分であるカンプトテシンを含むことより、ワダツミノキは経済的に価値の高い樹木と考えられます。抗がん剤の原料成分の高含有率個体を選抜し、その個体から苗木を増殖して栽培すれば、効率的にカンプトテシンを生産できると期待します。

本研究は、森林総合研究所の実行課題I412「機能性樹木等の創出のためのバイオ利用技術の開発」による成果です。
図表1 236770-1.jpg
図表2 236770-2.jpg
図表3 236770-3.jpg
図表4 236770-4.jpg
研究内容 http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2014/documents/p66-67.pdf
カテゴリ 機能性 クローン苗 苗木生産

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