タイトル |
気候変動が及ぼす地域別稲作経営利潤の影響予測モデル |
担当機関 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所 |
研究期間 |
2010~2013 |
研究担当者 |
國光洋二
合崎英男
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発行年度 |
2013 |
要約 |
気候変動による気温や降雨量等の変化が、作物単収、外観品質及び洪水被害を通じて、稲作の経営利潤(生産額と費用から算定した総合生産性)に及ぼす影響を評価するモデルである。将来の気候変動の経済影響予測と対策の経済効果を地域ごとに評価できる。
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キーワード |
稲作の総合生産性、作物収量指数、作物外観品質指数、洪水指数、気候変動
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背景・ねらい |
将来の気候変動は、農産物の単収や品質を通じて生産額に影響するとともに、排水対策に要する追加費用の増大を通じて生産コストに影響し、ひいては生産とコストを総合した経営利潤を変化させる。気候変動の影響を経済的に評価するには、単収のような直接的な指標のみでなく、地域農業における経営利潤の変化を予測・評価することが重要である。 本モデルは、稲作の経営利潤の水準を表す指標である総合生産性(全要素生産性)に着目し、これに対する社会経済要因と気候要因の影響を定量的に評価するものである。モデルを用いて、将来の気候変動の経済影響を地域別に予測できるとともに、気候変動に対する緩和策・適応策の経済効果を定量的に評価できる。
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成果の内容・特徴 |
- モデルは、稲作経営利潤指標である総合生産性(TFP)に対する社会経済要因と気候要因の影響度を、パネルデータの計量経済分析により推定したものである。社会経済要因には経営規模や研究開発投資を想定し、気候要因には稲作の単収、外観品質及び湛水被害を想定している(図1)。このうち気候要因については、冷害、CO2の施肥効果及び高温ストレスのような大気環境からの影響を考慮するため、作物収量モデルと作物品質モデルの予測結果を入力とし、地形条件により異なる豪雨の流出特性の影響を反映させるため、水文モデル(分布型水循環モデル)の予測結果を入力として用いている。
- 推定したモデルの係数が示すとおり、日本の稲作においては収量指数(単収)、外観品質指数(一等米比率)及び洪水指数(単位面積当たり最大洪水量)の1%の増加は、稲作の経営利潤指標(TFP)をそれぞれ0.24%増加、0.15%増加、0.012%低下させる。
- 全球気候モデル(MIROC 3h)による気候要因の予測値(変動シナリオA1B)をもとに、稲作経営利潤の平均的水準を地域別に予測した結果、西日本において利潤指標の年変動が拡大する(図2)。また、2050年頃までは気温上昇により利潤指標が上昇するものの、それ以降ではかえって低下する地域が多くなる(図3)。これは、洪水によるマイナス影響に加え、将来の気温が高温障害を引き起こす閾値を超えて単収の減少と外観品質の低下をもたらし、利潤指標に対するマイナス影響が極端化する年が増えるためである。
- 気候変動に対応するため、北海道・東北以外の地域において作期を3週間前倒しする適応策をとった場合、九州以外の地域では気候変動による利潤指標の低下が緩和できるが、九州では逆に利潤指標の低下が助長される(図3)。この結果から、気温の高い地域では、高温耐性品種の開発・普及等の他の適応策が必要であることが示唆される。
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成果の活用面・留意点 |
- 本成果は、将来の気候変動による地域別の稲作利潤の変動予測の他、圃場整備等の農業基盤整備や経営規模の拡大のための施策に対する定量評価にも活用できる。
- 本成果の予測結果は、経営規模の拡大や研究開発投資が過去のトレンドで推移すると仮定している。
- 全球気候モデルの改訂等に合わせて、モデルの更新が望ましい。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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研究内容 |
http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/nkk/2013/nkk13_s03.html
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カテゴリ |
経営管理
高温対策
高温耐性品種
コスト
施肥
凍害
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