タイトル |
最適な遺伝子発現制御により収量を向上させた複合病害抵抗性イネの作製 |
担当機関 |
(独)農業生物資源研究所 |
研究期間 |
2008~2014 |
研究担当者 |
高辻博志
後藤新悟
下田(笹倉)芙裕子
末次舞
Michael Gomez Selvaraj
林長生
石谷学
霜野真幸
菅野正治
松下茜
七夕高也
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発行年度 |
2014 |
要約 |
イネの転写因子「WRKY45」を遺伝子組換えによって強く働かせると、イネが複数の病害に対して抵抗性になったが、同時に収量が低下した。今回、WRKY45を適切な強さで働かせることにより、複数の病害に抵抗性を持ち、収量も良好なイネの作製に成功した。
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キーワード |
イネ、いもち病、抵抗性誘導剤、WRKY45、OsUbi7プロモーター
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背景・ねらい |
イネの収量は、糸状菌が原因であるいもち病や細菌が原因である白葉枯病など、様々な感染病の被害によって低下する。WRKY45は、プロベナゾールやベンゾチアジアゾールなどの抵抗性誘導剤の作用に必須の役割を担う転写因子で、その遺伝子をイネにおいて過剰発現すると、いもち病および白葉枯病を含む様々な病気に対して非常に強い抵抗性が付与され(複合抵抗性)、抵抗性誘導剤の散布が大幅に軽減できる。しかしながら、通常用いられる強いプロモーター(PZmUbi)でWRKY45遺伝子を働かせると、イネの収量が低下することがわかっていた。本研究では、WRKY45の実用利用に向け、様々な強さのプロモーターを用いてWRKY45遺伝子を発現させて最適化し、強い複合抵抗性と良好な収量を両立させることを目指した。
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成果の内容・特徴 |
- 発現レベルが異なる16種のイネ遺伝子の上流配列(2 kb)をそれぞれWRKY45 cDNAの上流につなぎ、イネに再導入して多数の形質転換体(T0世代)を得た。これらのうち、いもち病抵抗性および白葉枯病抵抗性の両者を示す系統を選んでホモ化した。
- ホモ化した系統について、隔離温室内で生育および収量を調査した結果、PZmUbiの約10分の1程度の強さの「POsUbi7(OsUbi7遺伝子由来のプロモーター)」を用いたWRKY45発現系統の一部において、複合病害抵抗性と収量のバランスが最良であった。
- 国内および国外(韓国、コロンビア)の野外隔離ほ場で収量評価を行い、POsUbi7によるWRKY45発現イネは、生育や収量の低下がほとんどないことを確認した(図1)。また、畑晩播法によって野外でいもち病検定を行った場合も、強いいもち病抵抗性が確認された。
- POsUbi7によるWRKY45発現イネは、4種のいもち病菌レースおよび海外由来の系統を含む6種の白葉枯病菌系統に対して顕著な耐病性効果を示したことから、系統非特異的に有効であることがわかった(図2)。
- PZmUbiによるWRKY45過剰発現イネと対照の日本晴イネとを、低温(8℃、7日)にさらした後、通常の温室条件に戻すと、日本晴イネはほとんどが正常な状態に回復したのに対して、WRKY45過剰発現イネのほとんどが枯死した(図3)。また、高塩濃度(250 mM、3日)処理でも同様の結果になった。ストレス条件において、PZmUbiによるWRKY45過剰発現イネでは防御遺伝子(PR1等)が転写誘導されており、上記の現象との関連が推測された。一方、POsUbi7によるWRKY45発現イネは、ストレス処理後、日本晴と同程度の回復を示した。このことから、POsUbi7の使用により環境因子高感受性の問題も解決できることがわかった。
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成果の活用面・留意点 |
- WRKY45イネの飼料用途での実用化を目指し、飼料用イネ品種に本研究で得られた最適な改良型WRKY45遺伝子を導入して優良系統の選抜を行っている。
- 今後、病原体の感染に応答するプロモーターを用い、WRKY45イネの開発研究を進めることにより、抵抗性誘導剤を使用する必要のない複合抵抗性イネの作製も期待できる。
- 海外の企業および団体から本技術への関心が寄せられている。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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図表4 |
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研究内容 |
http://www.nias.affrc.go.jp/seika/nias/h26/nias02606.html
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カテゴリ |
いもち病
飼料用作物
抵抗性
病害抵抗性
品種
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