タイトル | 樹木の種子豊凶のカギは窒素 |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
韓 慶民 壁谷 大介 稲垣 善之 飯尾 淳弘 Günter Hoch Christian Körner |
発行年度 | 2015 |
要約 | ブナの種子生産が大きく年変動する現象(結実豊凶)の制限要因は窒素資源であることがわかりました。ツキノワグマなどブナの結実に依存する野生生物の保護管理手法の策定など、幅広い分野で応用が期待されます。 |
背景・ねらい | ブナなど多くの樹木で種子生産が大きく年変動する現象(結実豊凶)は古くから知られています。しかし、そのメカニズムはまだよくわかっていません。本研究では、ブナの結実豊凶の制限要因は窒素資源であり、従来考えられてきたような樹体に蓄積された炭水化物の量ではないことが示されました。この成果は、ブナなどの堅果類樹木の結実間隔や着果量の予測に役立つだけでなく、今後の気候変動に対応したブナ林の天然更新や保全技術の開発、さらにはツキノワグマなどブナの結実に依存する野生生物の保護管理手法の策定など、幅広い分野で応用が期待されます。 |
成果の内容・特徴 | ブナの結実豊凶現象 近年、秋になると新聞、テレビをにぎわす話題のひとつに、クマの人里への出没があります。そして多くの場合、「ブナ科樹木の堅果が不作であったため、餌を求めて人里まで行動圏を拡げた」と説明されます。このように、身近な話題にものぼる樹木の結実豊凶現象(図1、マスティングとも呼ばれます)ですが、堅果を作るのに必要な樹体内の貯蔵資源(炭水化物)の蓄積と消費のバランスがこの現象を引き起こすという説明(図2、資源収支モデル)が広く受け入れられていました。しかし、このモデルの正否は不明のままでした。そこで私たちはブナにおける樹体内の貯蔵資源の動きと各器官がどのようにその資源を利用しているかを分析して、結実豊凶現象に関与する炭素・窒素資源の役割を探りました。 種子生産の炭素源 植物では、栄養成長と繁殖に利用される炭素資源は、上記の貯蔵炭水化物とその年の光合成生産物との二つに分けられます。しかし、繁殖年齢に達した樹高数十メートルの高木では、堅果生産にどちらの炭素資源が使われるかを調べるのはきわめて困難です。そこで、スイスのバーゼル大学と共同で、貯蔵炭水化物を安定同位体でラベリングし、当年の光合成生産物と区別できるように工夫しました。その結果、堅果生産の炭素源が貯蔵炭水化物ではなく、その年の光合成生産物であることを初めて実験的に明らかにしました(図3)。 不作の原因は窒素不足 この結果は、資源収支モデルの仮定に反して、貯蔵炭水化物は結実豊凶に直接関わる資源ではないことを示しています。では何が、結実豊凶の引き金になるのでしょうか。堅果生産に大きく貢献するその年の光合成生産は、葉の窒素濃度と正の相関を持つことから、窒素資源が結実豊凶を制限する要因ではないかと疑われます。堅果を作るにはまず花芽が必要ですが、1 個の花芽を作るには、葉芽の2倍以上の窒素資源が必要です。また、豊作年には、樹冠全体の葉群を作るのに必要な窒素とほぼ同量の窒素が堅果生産に使われていました(図4)。つまり、豊作年には、たくさんの窒素資源が優先的に堅果生産に配分されるため、花芽分化に必要な窒素資源が不足した結果、翌年に凶作になることがわかりました。このように2 世紀以上にわたり神秘のベールに包まれていた結実豊凶現象のメカニズムが、次第に明らかになりつつあります。 以上の成果は、ブナなどの堅果類樹木の結実間隔や着果量の予測だけでなく、今後の気候変動に対応したブナ林の天然更新や保全技術の開発、さらにはツキノワグマなどブナの結実に依存する野生生物の保護管理手法の策定など、幅広い分野で応用が期待されます。 本研究は、科学研究費補助金「ブナ林堅果豊凶メカニズムの解明」およびOECD 国際共同プログラムにおける短期在外研究員による成果です。詳細については、Han et al. (2008) Tree Physiology 28:1269-1276、Han et al. (2014) Oecologia 174:679-687、Hoch et al. (2013)Oecologia 171:653-662 をご覧ください。 |
図表1 | ![]() |
図表2 | ![]() |
図表3 | ![]() |
図表4 | ![]() |
研究内容 | http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2015/documents/p58-59.pdf |
カテゴリ | コスト 繁殖性改善 |