夏期湛水によるリン酸供給能の向上と湛水後のニンジン栽培におけるリン酸減肥

タイトル 夏期湛水によるリン酸供給能の向上と湛水後のニンジン栽培におけるリン酸減肥
担当機関 (国)農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター
研究期間 2009~2015
研究担当者 荒川祐介
森清文
脇門英美
肥後修一
久保田富次郎
発行年度 2015
要約 中・南九州の畑地かんがい整備地域において夏期湛水を行うことで土壌の保水性が高まり、ニンジンの初期生育が確保され、リン酸供給能も高まる。リン酸3割減肥でも減肥しない場合と同等以上の収量が得られる。
キーワード 夏期湛水、土壌水分、リン酸、陰イオン交換樹脂、ニンジン
背景・ねらい 中・南九州の畑地かんがい整備地域ではかんがい水の多目的有効活用による農業生産性の向上が期待されており、土壌改良用水水利権を確保し、有害線虫防除のための夏期湛水技術を導入している事例もある。夏期湛水により土壌還元状態が継続するので難防除雑草の発生が顕著に抑制されることも報告されている。リン鉱石等輸入肥料原料の高騰による肥料・資材価格の上昇が農家経営の負担となっており、本研究では、夏期湛水後のリン酸減肥が湛水後のニンジンの収量性に及ぼす影響を土壌有効態リン酸含量の異なる条件で検討する。また、陰イオン交換樹脂埋設法(圃場に埋設した陰イオン交換樹脂への交換吸着により根のリン酸吸収を模擬する手法)により土壌のリン酸供給能が高まることを明らかにし、リン酸減肥がなぜできるか傍証を得る。
成果の内容・特徴
  1. 夏期湛水後のニンジンに対する増収効果は、土壌有効態リン酸含量の小さい条件で顕著である。土壌有効態リン酸含量が基準値(10~50 mg/100g)の範囲にある場合でも7~8月の約1ヶ月間に夏期湛水を行った圃場のニンジン収量は慣行(湛水無)と同等以上であり、かつ、リン酸肥料の3割減肥が可能である(図1)。
  2. 夏期湛水の効果は土壌の保水性向上に表れる。ニンジンの播種時期はごく浅い層の土壌が乾燥しやすいが、夏期湛水を行った後の圃場では土壌中の水分量が増加し(図2)、秋冬ニンジンの苗立ちが安定し初期生育が良好となる(図表略)。また、土壌水分の増加によりリン酸供給能が高まる。ニンジン播種後の1月間圃場に埋設した陰イオン交換樹脂バッグに交換吸着したリン酸イオンの量は慣行に比べて高い(図3)。リン酸イオンの量とニンジン収量との間に高い正の相関関係が認められる(図3)。
成果の活用面・留意点
  1. 普及対象:土壌改良用水水利権を確保している土地改良区の生産者
  2. 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:笠野原土地改良区(鹿児島県)、綾川畑地かんがい事業地区(宮崎県)等において、当面は夏期湛水の取組のある520 haでの普及が見込まれる。今後夏期湛水の取組拡大に合わせて1070 haまでの普及を目指す。
  3. 収益性の向上:湛水作業の委託費(畦塗り作業と代かき作業を含み、勾配造成費を含まない。)が20千円/10a掛かり増しとなるが、肥料と殺線虫剤、除草剤を節約して一部相殺できる。図1の有効態リン酸含量が11 mg/100gの圃場で得られた夏期湛水区の収量5555 kg/10aを基にニンジン単価90.6 円/kgを乗じて粗収益を計算すると503 千円/10aとなり、農業所得は慣行をやや上回る110 千円/10a(慣行区比115%)と試算できる。
  4. 投入労力・用水量:本事例では畦塗り作業と代かき作業に計約6時間/10a、用水量は代かき時約180 m3/10a、湛水期間に約 1200 m3/10aを要した(期間中の平均日減水深3cm)。夏期湛水の実施およびかんがい水の利用にあたっては地元の土地改良区の使用基準、使用方法を遵守する。
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研究内容 http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/karc/2015/15_042.html
カテゴリ 肥料 病害虫 乾燥 経営管理 除草剤 土壌改良 難防除雑草 にんじん 播種 防除

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