発生予察情報に基づく病害虫対策の経済性評価手法

タイトル 発生予察情報に基づく病害虫対策の経済性評価手法
担当機関 (国研)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業研究センター
研究期間 2013~2014
研究担当者 宮武恭一
発行年度 2016
要約 発生予察によって推計される病虫害の発生頻度と品種の違い等によって生じる被害強度の強さをマトリックスに組んだリスクマップ上で、被害額と防除コストについての費用便益分析を行うことで、費用対効果に基づく防除対象の絞り込みが可能になる。
キーワード リスクマップ、経済性評価、斑点米カメムシ類、発生予察
背景・ねらい 病害虫対策においては、いわゆる「スケジュール防除」が広く行われてきたが、減農薬栽培への根強い消費ニーズに加え、米価下落等によってコストダウンの必要性が高まっており、被害リスクと経済性の両面を考慮した病害虫対策が求められている。
岩手県では、斑点米カメムシによる被害は1999年以降たびたび多発しており、その被害額は2014年で3億2400万円と推計される。被害の大きさは岩手県における斑点米カメムシ類の主要種であるアカスジカスミカメの発生・増殖が促進される「高温年」で拡大する確率が高まるため、2011年よりアメダスデータに基づき、大きな被害の発生が推察される年には、追加防除を呼びかける病害虫発生予察情報(警報、注意報)が発信されている。
ここでは、岩手県における斑点米カメムシ対策を事例とし、リスクマネジメントの手順に従って、発生予察情報に基づく病害虫対策の経済性を評価する手法を提案する。
成果の内容・特徴
  1. リスクマネジメントでは、リスクマップを用いて病害虫被害などのリスクを認識・評価し、リスクに対応する手段を選択・実行し、その効果をモニタリングする。
  2. 斑点米カメムシによる被害額は、2等米以下への落等割合と1等米と2等米との価格差を乗じたものとして算出されるが、同一年でも水稲品種によって、被害の大きさに違いがある。そこで、岩手県における主要品種である「ひとめぼれ」「あきたこまち」「いわてっこ」「ヒメノモチ」について、品種ごとに被害頻度の高い「高温年」と平年の落等割合をリスクマップ上に整理し、1等米と2等米との価格差と栽培面積を乗じて被害額を推計する(表1)。
  3. 次に、病虫害の発生頻度を縦軸に、品種による病虫害の強度を横軸に置いたリスクマップ上で、被害額と追加防除コストを推計する。追加防除を行った場合、被害額が平年なみに抑制されるものとして、追加防除に要するコストと「被害抑制効果」を比較する費用便益分析を行うと、「ひとめぼれ」では斑点米カメムシによる落等被害額は「高温年」でも17,200万円であり、追加防除のコスト63,682万円の方が大きく上回る。一方、「ヒメノモチ」では、「高温年」の被害額は平年に比べ1,877万円増加する。これは追加防除のコスト2,581万円をやや下回る水準であるが、3等以下への落等(価格差2千円以上)のリスクもあることから、追加防除の意義は小さくない。
  4. 実際の斑点米カメムシ防除の防除割合(表2)に基づいて評価結果をモニタリングすると、被害強度の高い「ヒメノモチ」の作付割合が高いD町、E町では防除割合が高い一方、「ひとめぼれ」の作付けが主力の北上川下流のK市などでは、「高温年」でも追加防除を行わない例が多く、リスクマップ上での費用損益分析の結果と符合し、アメダスデータに基づいた追加防除は費用対効果の面からも適切である。
成果の活用面・留意点
  1. 発生予察情報などを活用し、費用対効果を考慮した病害虫対策を行う際に参考になる。
  2. 斑点米カメムシの防除スケジュール、慣行の水稲防除体系については発表論文を参照。
  3. 本成果は、平成26年度発生予察の手法検討委託事業「発生予察システム検証事業」の成果の一部を取りまとめたものである。
研究内容 http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/carc/2016/carc16_s04.html
カテゴリ 病害虫 アカスジカスミカメ 害虫 コスト 農薬 斑点米カメムシ 病害虫防除 品種 防除 モニタリング

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