果実成熟制御の従来モデルを覆す

タイトル 果実成熟制御の従来モデルを覆す
担当機関 (国研)農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門
研究期間 2014~2017
研究担当者 伊藤康博
発行年度 2017
要約 トマトのrin変異体は成熟研究の基本材料である。rin変異はコードタンパク質を転写活性化因子から抑制因子へ変換したこと、正常型遺伝子非存在下でも成熟が始まることを明らかにし、これらは従来の成熟制御モデルを根本的に覆す新知見である。
キーワード トマト、果実、成熟、ゲノム編集、転写因子
背景・ねらい トマトには果実の成熟が完全に抑制される変異がいくつか知られている。そのうち、転写因子をコードするRIN遺伝子に生じたripening inhibitor (rin)変異は、赤色色素の蓄積、軟化、さらには成熟ホルモンであるエチレン発生量の増大等、成熟時の典型的な生理現象が全くみられない。この明確な成熟抑制の性質は、正常型トマトの鮮やかな成熟過程と好対照であり、1960年代に発見され現在に至るまで、成熟に関わる研究に欠かせない材料として、さらに高日持ちトマト育種の親株として世界中で利用されている。これまでrin変異は完全に機能を失う変異(ヌル変異)であり、正常型遺伝子RINは成熟開始に必須であると信じられてきた。本研究ではRINの機能とそのrin変異について再評価し、従来の成熟開始制御モデルの不備を明らかにすることで、果実の成熟制御による高品質化に資する情報を得る。
成果の内容・特徴
  1. rin変異型対立遺伝子にコードされるタンパク質は転写を抑制する機能を獲得しており、転写活性化因子である正常型RINから性質が正反対に変化する(図1)。
  2. RIN遺伝子をゲノム編集の一手法であるCRISPR/Cas9法でノックアウト(破壊)したところ、ノックアウト植物が着生した果実はrin変異果実とは異なり、わずかだが赤色色素の蓄積、果実の軟化、エチレン生産の増大等、成熟開始の兆候をみせる。しかし、完熟には至らない(図1)。
  3. 同様にrin変異体にCRISPR/Cas9法を適用し、rin変異型対立遺伝子を不活性化したところ、RINノックアウト果実と同様の形質を示し、成熟の回復が認められる(図1)。
  4. rin変異体果実では完全に発現抑制される成熟関連遺伝子について、上記2、3のゲノム編集果実における発現を解析すると、程度の多少こそあれ発現上昇がみられることから(図2)、成熟が開始していることは明らかである。
  5. 上記の結果から、従来の成熟制御モデルを覆す、以下の結論が得られる。
 (1)rin変異はヌル変異ではなく、転写抑制機能を獲得した機能獲得型変異である。
 (2)RINは完全に成熟するためには必須の遺伝子であるが、成熟の開始には必ずしも必要ではない。 
成果の活用面・留意点
  1. 高日持ちトマトの育種として、正常型品種とrin変異体を交配したF1系統が世界的に利用されている。一方、RINノックアウト果実は全体としては弱い成熟進行を示すが、果肉軟化に関しては通常品種よりも早まるため、高日持ち育種には適さない。
  2. 他の果実類でもRIN相同性遺伝子による果実成熟の制御に関する研究例があるが、rin変異体のように成熟を完全に抑制するには、遺伝子機能を抑制するのでは不完全であり、転写抑制型に変換する必要がある。
研究内容 http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/nfri/2017/nfri17_s08.html
カテゴリ 育種 トマト 品種

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