ゲノム編集を用いたウシ疾患原因遺伝子の修復

タイトル ゲノム編集を用いたウシ疾患原因遺伝子の修復
担当機関 (国研)農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門
研究期間 2015~2017
研究担当者 細江実佐
池田光美
松山秀一
赤木悟史
大越勝広
中村翔
美辺詩織
木村康二
発行年度 2017
要約 ゲノム編集と体細胞クローン技術を用い、余分なDNA断片を挿入することなくウシの疾患原因遺伝子が修復できる。
キーワード ゲノム編集、クローン技術、黒毛和種、遺伝子修復、ゲノム育種
背景・ねらい 家畜の選抜育種が進むにつれて、潜性遺伝子の固定化による遺伝性疾患が問題になっている。特に肉用牛では特定種雄牛の精液が集中的に用いられるため、疾患原因遺伝子が潜在的に広まってしまう。優秀な遺伝形質を有効に活用するため、疾患原因遺伝子の修復や一塩基多型の改変を可能にする、新たな育種繁殖技術の確立が求められる。
成果の内容・特徴
  1. IARS(イソロイシルtRNA合成酵素)異常症はIARS遺伝子に生じた一塩基変異が原因で起こる遺伝性疾患であり、タンパク質合成不全による多様な機能障害が発生する。全国の黒毛和種種雄牛の約14%がこの疾患遺伝子を保因している(2013年調査)。
  2. IARS遺伝子変異部位を特異的に認識するように設計した人工制限酵素CRISPR/Cas9は変異が起きた配列のみを切断し、正常な配列は切断しない。修復ベクターには修復が起きたことがわかるように緑色蛍光タンパク質(AcGFP)発現カセットが含まれるが、転移因子トランスポゾンを利用したpiggyBacシステムにより痕跡なく取り除くことが可能である。
  3. 方法を図1に示す。保因牛より採取した体細胞にCRISPR/Cas9と正常な配列を含む修復ベクターを導入し、修復が起きた細胞をAcGFPの発現を指標にセルソーターで選別する。修復が確認された細胞をドナーとして核移植胚を作成し、クローン胎子を得る(1stクローン、図2a)。得られたクローン胎子より採取した体細胞にpiggyBac転移酵素を導入してAcGFPカセットを除去し、再度クローン個体を作成する(2ndクローン、図2b)。
  4. 最終的に得られたクローン胎子において、設計通りの修復と、外来DNA配列の挿入や内在配列の欠失などが起こることなくAcGFPカセットが除去されていることが確認されている(図2c、図3)。また修復されたアリル由来のIARS遺伝子が発現していることも確認されている(図3)。
成果の活用面・留意点
  1. 本研究成果で開発した手法は、疾患原因遺伝子の修復のみならず、有用形質に関わる一塩基多型等の改変を可能にする技術であり、家畜のゲノム育種の有力なツールとなり得る。
  2. 体細胞クローン動物はエピジェネティクスの不完全な初期化による異常が生じる場合がある。また、ゲノム編集によるオフターゲット効果についても検証が必要である。外来遺伝子を使用せずに受精卵でゲノム編集を行うなど、さらなる技術の高度化が求められる。
  3. クローン動物の産業利用については必ずしも消費者の同意が得られておらず、ゲノム編集を用いた農畜産物の規制についてもまだ基準が定まっていない。客観的な安全性検証システムの構築と、ゲノム編集に関わる研究者と有識者の積極的な交流、および消費者への正確かつ丁寧な情報発信が必要である。
研究内容 http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/nias/2017/nias17_s14.html
カテゴリ 育種 ゲノム育種 肉牛 繁殖性改善

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