タイトル |
共生細菌による昆虫の性染色体の母系遺伝阻害を介した性操作 |
担当機関 |
(国研)農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門 |
研究期間 |
2016~2017 |
研究担当者 |
陰山大輔
上樂明也
桑崎誠剛
金森裕之
片寄裕一
成田聡子
小長谷達郎
宮田真衣
Markus Riegler
大野瑞紀
佐々木達史
吉戸敦生
佐原健
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発行年度 |
2017 |
要約 |
母系伝播する共生細菌ボルバキアがチョウ目昆虫のZ染色体の母系遺伝を阻害し、父方のZ染色体のみを持つ次世代を生じさせていることを明らかにした。同時にボルバキアは宿主の性決定をオスからメスに覆していることを分子レベルで明らかにした。
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キーワード |
共生細菌、性染色体、母系遺伝、生殖、性決定
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背景・ねらい |
細菌ボルバキアは約半数の昆虫種に感染しており、様々な方法で宿主の生殖を操作していることから、その機構解明は革新的な害虫制御技術の開発にとって光を与えるものとなり得る。本研究は、ボルバキアが原因でメスのみを生むチョウ目昆虫(キタキチョウ)を材料にその機構解明を目指したものである。
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成果の内容・特徴 |
- 雌雄1:1で子どもを生むキタキチョウ正常メスの性染色体構成はWZであるのに対し、ボルバキア(wFem系統)が原因でメスのみを生むキタキチョウの性染色体はZ0であることが染色体FISH、ゲノム解析等から示される(図1)。
- WZメスが生む胚にはWZ胚とZZ胚がほぼ同数含まれるのに対し、ボルバキア感染Z0メスが生む胚にはZ0胚のみしか含まれない(図2左・中央)。
- ボルバキア感染Z0メスを成虫時に抗生物質処理してボルバキアを抑制すると、生まれる胚にはZ0とZZが含まれるようになり(図2右)、成虫にまで生育するのはZZ個体のみである。ボルバキアは宿主のZ染色体の母系遺伝を完全に阻害し、父由来のZ染色体を持つZ0個体のみを生じさせる。これは共生細菌が昆虫の染色体挙動に影響を与えることを示した初めての例である。
- 成虫における性決定遺伝子doublesex (dsx)のスプライシング産物を調べると、ボルバキア感染Z0メスからはWZメスと同様にメス型の産物のみが見られるが、ボルバキア感染Z0個体を幼虫期に抗生物質処理してボルバキアを抑制した場合、出現する間性個体からはオス型、メス型両方のスプライシング産物が見られる(図3)。カイコと同様、キタキチョウでもメスへの性決定にW染色体が必要であるが、Z0個体ではW染色体の機能をボルバキアが肩代わりし、dsxの上位で性決定に深く関わっている。
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成果の活用面・留意点 |
- 染色体の次世代への伝達は、生物にとって生存・繁殖の根幹に関わる重要なプロセスである。そのプロセスを細菌が完全に阻害できることは、細胞内共生に関する重要な新知見であるとともに、チョウ目昆虫を中心とした多くの農業害虫に対する繁殖制御への応用が期待される。
- ボルバキアによる性決定遺伝子dsxのスプライシング操作は豆類の害虫であるアズキノメイガでも知られており、今後、相互に比較することにより共通するメカニズムの解明が期待できる。
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研究内容 |
http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/nias/2017/nias17_s12.html
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カテゴリ |
カイコ
害虫
繁殖性改善
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