植物病原細菌の作物内での増殖に関与する葉緑体酵素の発見

タイトル 植物病原細菌の作物内での増殖に関与する葉緑体酵素の発見
担当機関 (国研)農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門
研究期間 2010~2017
研究担当者 秋本千春
田部茂
梶原英之
南栄一
落合弘和
発行年度 2017
要約 非病原性細菌と病原性細菌を処理した場合に大きく発現量が変化する植物タンパク質の中に、病原細菌の感染に鋭敏に反応する葉緑体にあるタンパク質脱リン酸化酵素がある。葉緑体にこの酵素をもたない植物では、病原細菌の増殖が抑えられることから、感染に大きく関与すると考えられる。
キーワード アブラナ科植物、イネ、葉緑体、タンパク質脱リン酸化酵素、細菌病
背景・ねらい アブラナ科植物(大根やキャベツ等)の黒腐病やイネの白葉枯病は、病原細菌の感染によって引き起こされる作物の重要病害である。これら病原細菌の効果的な防除技術の開発を目指し、病原細菌の感染を制御する鍵となる作物のタンパク質を見つける。
成果の内容・特徴
  1. 網羅的発現解析により、病原性を有する白葉枯病菌を感染させたイネでは、病原性を持たない白葉枯病菌(非病原性細菌)を接種させた場合と比較して発現量が顕著に低下する葉緑体のタンパク質脱リン酸化酵素を発見。
  2. 黒腐病に感染したシロイヌナズナ(アブラナ科の実験植物)においても、イネの場合と同様に病原性細菌を接種した場合、非病原性細菌を接種した場合に比較してこの酵素の発現量が低下する(図1)。
  3. 葉緑体にこのタンパク質脱リン酸化酵素をもたないシロイヌナズナ(酵素欠損株)は野生株と同様に生育する(図2A)ことから、本酵素は植物の生育に必須ではない。
  4. 酵素欠損株に病原細菌を感染させたところ、野生株と比較して黒腐病の病斑の発生が抑えられる(図2B)とともに、病原細菌の増殖量が低下する(図3)。このことから、このタンパク質脱リン酸化酵素は、病原細菌の感染に大きく関与すると考えられる。
  5. このタンパク質脱リン酸化酵素が脱リン酸化を行う相手(基質)の候補として、光合成のカギ酵素であるルビスコの立体構造の維持に必須なシャペロニンを二次元電気泳動と質量分析法を用いて同定することが出来る。
  6. シャペロニンがリン酸化された状態を維持することで、何らかの理由で作物の耐病性が高まり、病原細菌の増殖を抑えると推測される。
成果の活用面・留意点
  1. この葉緑体のタンパク質脱リン酸化酵素と作物の感染の因果関係についてはさらに詳しく調べる必要がある。
  2. 本酵素やシャペロニンはシロイヌナズナだけではなく、多くの植物が共通して持っていることから、幅広い作物の防除技術の開発に応用できる。
  3. 葉緑体は作物の生育に必要な光合成を行うとともに、作物の耐病性に必要な活性酸素やホルモンを生産する。一般的に耐病性を高めるとそのトレードオフとして生産性が減少するといわれる。今後、照射光の波長や照射時間が葉緑体酵素に及ぼす影響を明らかにすることで、耐病性と生産性を両立した栽培技術の開発につながる。
研究内容 http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/nias/2017/nias17_s06.html
カテゴリ 病害虫 あぶらな キャベツ 栽培技術 防除

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