タイトル |
気候変動により将来の世界の穀物収量の伸びは鈍化する |
担当機関 |
(国研)農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境変動研究センター |
研究期間 |
2015~2017 |
研究担当者 |
飯泉仁之直
古家淳
沈志宏
金元植
岡田将誌
藤森真一郎
長谷川知子
西森基貴
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発行年度 |
2017 |
要約 |
世界の穀物収量の将来変化について、気候変動の影響に加えて、既存の増収技術の普及や播種期の移動などの簡易な対策技術の導入を考慮した見通しを示す。トウモロコシとダイズは今世紀末までの気温上昇が1.8°C未満でも収量増加が停滞すると見込まれる。
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キーワード |
気候変動、収量増加、コムギ、コメ、トウモロコシ、ダイズ
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背景・ねらい |
世界の食料需要は2050年には2016年の約1.6倍に達すると見込まれる。一方、温室効果ガスの排出削減や生物多様性の保全などのため栽培面積の大幅な拡大は難しく、主に収量の増加を通じて、増大する食料需要に対応する必要がある。近年、欧州のコムギなどで収量の伸びが鈍化しており、気候変動がその理由の一つと考えられていることから、技術進歩による将来の収量増加に気候変動が与える影響を予測する。
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成果の内容・特徴 |
- 作物の生理・生態的な生育過程を数式で表現した収量モデルを用いて、気候変動が世界各地の穀物収量に及ぼす影響を50kmメッシュで予測している。さらに現在の世界の収穫面積分布と灌漑・天水面積割合の地理情報を用いて、メッシュ別の収量予測値を集計し、世界平均収量を算出している。予測の条件に、開発途上国で普及するであろう既存の増収技術(施肥管理や高収量品種の利用)と、気候変動への対処として簡易に取り組める対策技術(播種日の移動や高温でも生育期間が短縮しない既存品種の利用拡大)を考慮した点が本予測の特徴である。技術進歩は気候変動に関する政府間パネル(IPCC)で使用されている社会経済シナリオに沿うと仮定している。また、気候変動はIPCCで使用されている4つの排出シナリオ(RCP2.6、RCP4.5、RCP6.0、RCP8.5)に基づいており、これらは、それぞれ、産業革命以前(1850-1900年)から今世紀末(2091-2100年)までの気温上昇が1.8°C、2.7°C、3.2°C、4.9°Cに対応する。
- トウモロコシとダイズでは、産業革命以前から今世紀末までの気温上昇が1.8°Cでも世界平均での収量増加が抑制され、気温の上昇が大きいほど将来の収量増加が低くなる(図1)。コメとコムギについては、今世紀末の気温上昇が3.2°Cを超えると収量増加が停滞し始めるが、気温上昇がそれ未満の場合は世界の平均収量への影響はあまりないことが示唆される。ただし、コメやコムギでも、既に気温が高い低緯度地域などでは、気温上昇により悪影響を受ける場合がある(図2)。
- 上記の予測結果から、今後、気候変動の下で継続的に収量を増加させるためには、従来の増収技術の開発途上国での一層の普及に加えて、高温耐性品種や灌漑・排水設備の整備といった、より積極的な気候変動への適応技術の開発・普及を加速していく必要があることが示唆される。
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成果の活用面・留意点 |
- 2020年以降の気候変動対策の枠組みであるパリ協定では、世界の平均気温の上昇を2°C未満、可能ならば、1.5°C未満に抑えることを明記している。このため、現在、IPCCが特別報告書の作成に取り組むなど、1.5°C上昇の影響評価は国際的な関心事となっている。本成果は、1.5°Cの気温上昇が穀物収量に及ぼす影響を推定するために役立つことから、IPCCの特別報告書でも引用される予定である。
- 先進国など既に収量が高い地域で必要とされる革新的な増収技術(超多収性品種など)や灌漑面積割合の増加、収穫面積の増加は、本予測には含まれていない。このため、将来、達成される収量は本予測よりも高い可能性がある。
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研究内容 |
http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/niaes/2017/niaes17_s06.html
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カテゴリ |
気候変動対策
高温耐性品種
高収量品種
施肥
大豆
多収性
とうもろこし
播種
品種
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