タイトル | 未利用資源「トドマツ樹皮」有用成分の効果的な抽出法 |
---|---|
担当機関 | (国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
楠本 倫久 橋田 光 松井 直之 大平 辰朗 |
発行年度 | 2019 |
要約 | トドマツの樹皮には化粧品や香料等の原料として有用な成分(β - フェランドレン、cis- アビエノール)が含まれることを発見し、それらを環境に配慮しながら効率的に抽出する手法を開発しました。 |
背景・ねらい | 現在、トドマツは伐採時期を迎えており、その樹皮のほとんどが利用されずに大量に焼却処分されています。ところが、トドマツの樹皮は、β-フェランドレンやcis-アビエノールといった大変有用な成分を、他のモミ属と比べて5~10倍以上多く含んでいることが分かりました。そこで、まず前者を減圧マイクロ波水蒸気蒸留法で、次に後者を超臨界二酸化炭素抽出法で抽出することにより、有機溶媒を使わずこれまでより短時間・高濃度で抽出することが可能となりました。 |
成果の内容・特徴 | なぜトドマツ樹皮の利用が必要か トドマツは北海道の人工林面積の約50%を占める主要な針葉樹です。戦後、大量に植えられたトドマツ林の半分以上が今伐採時期を迎えており、林地や製材工場では、枝葉や樹皮などが大量に産出されています(図1)。近年、枝葉から採れる精油に機能性が見出され、その一部が空気浄化剤などの原料として工業的に利用され始めていますが、樹皮の方は主に焼却処分されており、その価値は見出されていません。今後、これまで以上に産出量が増えると予想されるトドマツの樹皮から有用な成分を取り出すことで、樹皮の経済的価値を高め有効利用につなげることができます。
樹皮に豊富な高付加価値成分 トドマツ樹皮に含まれる成分を調べたところ、β-フェランドレンとcis-アビエノールという2つの有用成分(図2)がそれぞれ1%程度含まれていることが分かりました。これは他のモミ属と比較しても5~10倍以上の量です。β-フェランドレンは、空気浄化剤や化粧品原料、透明性に優れた耐熱性バイオベースポリマー(バイオマス資源を主原料とする高分子)を製造するための原料としても期待されています。また、cis-アビエノールは、抗菌・抗ウイルス作用に加え、幻の香料とされる龍涎香(アンバーグリス:マッコウクジラの結石)の代替原料としても期待されています。しかしながら、これらの成分は合成が困難であり、天然物から供給する必要があります。 環境汚染に配慮した効率的な取り出し方 これら2つの成分を、環境に配慮しながら連続して取り出す技術を検討しました。まず、トドマツ樹皮からβ-フェランドレンを得る方法として、減圧マイクロ波水蒸気蒸留(VMSD)法を選択しました(図3)。最適な条件では、従来法(マイクロ波を用いない水蒸気蒸留)に比べて処理時間を約33%短縮でき、かつ5ポイント程度高い純度で目的物質を得られることが分かりました。次に、この抽出済の樹皮からcis-アビエノールを取り出す方法を検討し、有機溶媒を使わない技術として注目されている超臨界二酸化炭素抽出(SFE)法を選択しました(図4)。最適な条件では、cis-アビエノールを50%以上含む抽出物を1工程かつ短時間(30分以内)で得ることができました。これに対して、従来の有機溶媒による抽出法で同等の純度を確保するためには少なくとも3工程を要し、長時間(24時間以上)を必要としました。 これら2段階の抽出法(図5)は、いずれも有機溶媒を使用しないため土壌や地下水を汚染することがありません。この抽出プロセスによってトドマツ樹皮から有用成分を効率的に回収でき、トドマツ樹皮の経済的な価値を高めることが可能になります。 |
研究内容 | https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2019/documents/p38-39.pdf |
カテゴリ | 機能性 高付加価値 未利用資源 |