ネムリユスリカの極限乾燥耐性をつかさどる遺伝子HSF1

タイトル ネムリユスリカの極限乾燥耐性をつかさどる遺伝子HSF1
担当機関 (国研)農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門
研究期間 2015~2018
研究担当者 オレグ グセフ
黄川田隆洋
リシャー コルネット
十亀陽一郎
エレナ シャギマルダノワ
オルガ コズロワ
アレクサンドル チェルカソフ
徳本翔子
宮田佑吾
ミハイル ゲルファンド
パベル マジン
ビタ ステパノワ
マリア ロガチェワ
アレクセイ ペニン
アレクセイ スツプニコフ
ロマン ストルミン
発行年度 2018
要約 アフリカの半乾燥地帯に生息するネムリユスリカは、完全に乾燥しても死に至らない。HSF1は、この極限的な乾燥耐性を制御する転写因子である。HSF1による遺伝子制御ネットワークを活用することで、生細胞や組織の常温乾燥保存法の開発が加速される。
キーワード ネムリユスリカ、乾燥無代謝休眠、熱ショック転写因子、Pv11細胞
背景・ねらい アフリカ中部の半乾燥地帯に生息するネムリユスリカという昆虫は、体内の水分のほとんどが無くなるまで干からびても、再水和によって蘇生する能力を持っている。この乾燥無代謝休眠と呼ばれる能力は、昆虫ではネムリユスリカの幼虫でしか確認されていない。
本研究は、この分子メカニズムを明らかにするため、ネムリユスリカと近縁で乾燥耐性がないヤモンユスリカのゲノムを比較し、ネムリユスリカに極限的な乾燥耐性の機能が発現する分子機構の解析を行う。
成果の内容・特徴
  1. ネムリユスリカとヤモンユスリカの解読済みのドラフトゲノムの比較を行うと、ネムリユスリカでは、乾燥によって発現上昇する遺伝子の転写開始点近傍にゲノム特異的なDNAモチーフ(TCTAGAA)が多く、かつ偏って存在する(図1)。
  2. プロモーター領域にこのモチーフを持つ乾燥誘導性の遺伝子には、Lea遺伝子やチオレドキシン遺伝子、トレハロース合成酵素遺伝子など、ネムリユスリカの乾燥耐性に関連する遺伝子が多く含まれており、さらにこのモチーフは、ショウジョウバエの熱ショック転写因子(HSF1)の結合領域に酷似している。
  3. ネムリユスリカの培養細胞(Pv11細胞)を用いて、RNA干渉法によってHsf1遺伝子の働きを抑制すると、上記の乾燥耐性関連遺伝子の発現が減少する。さらに、Hsf1遺伝子の発現を抑制させたPv11細胞は乾燥させると、通常のPv11細胞を乾燥させたものと比べて、再水和後の細胞生存率が有意に低下する(図2)。このことからHSF1がネムリユスリカの乾燥耐性を制御する重要な転写因子であると考えられる。
  4. 乾燥無代謝休眠機構を持たないヤモンユスリカもHSF1を持っているが、ネムリユスリカのように乾燥耐性関連遺伝子の発現を誘導する機能はない。従って進化の過程で、熱ストレス応答性の遺伝子発現制御ネットワークが形成された結果、ネムリユスリカは極限的な乾燥耐性を発揮できるようになったことが示唆される。
成果の活用面・留意点
  1. 現在は遺伝子を細胞に発現させる際、化学処理や温度刺激を与える方法が主流であるが、ネムリユスリカのHsf1遺伝子発現制御機構を応用することにより、新たに乾燥刺激を与えて任意の細胞に目的遺伝子を発現できるシステムが構築できる。
  2. 本研究の成果を発展させ、さまざまな乾燥耐性因子とそのネットワークを活用することで、生細胞や組織の常温乾燥保存法の開発が加速される。
研究内容 http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/nias/2018/nias18_s20.html
カテゴリ 乾燥

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