高温乾燥風による水稲のリング状乳白粒形成の細胞生理学的要因

タイトル 高温乾燥風による水稲のリング状乳白粒形成の細胞生理学的要因
担当機関 (国研)農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター
研究期間 2012~2017
研究担当者 和田博史
畠山友翔
増本(久保)千都
野並浩
森田敏
平岡賢三
恩田弥生
中島大賢
中野洋
発行年度 2018
要約 登熟中期の高温乾燥風に伴う水ストレス下では、玄米胚乳において浸透圧調節が起き、デンプン合成が低下する。この浸透圧調節の結果、細胞内では液胞様構造がデンプンに置き換わる代わりに、成熟期まで液胞様構造が残存することで空隙となり、白濁が形成される。
キーワード イネ、フェーン、水ストレス、浸透圧調節、乳白米、デンプン合成、液胞
背景・ねらい 白未熟粒の一つである乳白粒は、登熟期の低日照や極端な高温のほか、台風襲来に伴い局所的に発生する高温乾燥風(フェーン)などの不良環境条件に起因して発生する。2007年には南九州の早期「コシヒカリ」において登熟初期からの低日照とフェーンの影響により、リング状の乳白粒の発生歩合が45%に達する記録的な品質低下被害に見舞われた。高温乾燥風条件下では、環境適応戦略として植物に広く存在する浸透圧調節が胚乳で働くことにより、胚乳の成長が維持される一方で、内側の胚乳で糖集積が促進され、デンプン合成が一時的に阻害され、白濁に至る(2013年研究成果情報)。この白濁は細胞内に空隙ができ、種子脱水後にその隙間を光が乱反射することで起こるが、細胞内の何が空隙化するのかは明らかにはされていない。そこで、人工気象室でフェーン処理した後、胚乳細胞で起こる空隙形成の要因を透過型電子顕微鏡解析等により細胞生理学的に明らかにする。
成果の内容・特徴
  1. 48時間フェーンにさらされると、玄米成長阻害により登熟歩合が低下し、乳白粒の発生歩合は約43%に達する(表1)。
  2. 48時間のフェーン処理条件下の玄米において、白濁部を含んだ内胚乳細胞層の細胞質ではデンプンの集積が部分的に阻害され(図1A)、隙間(以下、ギャップ領域と呼称)が形成される(図1C)。対照的に、外胚乳細胞層では、デンプンの集積は阻害されず、ギャップ領域は形成されない(図1D、F)。
  3. 対照区の整粒では胚乳細胞内がデンプン粒で満たされており、液胞様構造は認められない(図2C-E)。一方、浸透圧調節が起こった後のフェーン区の乳白粒では、半透明となる胚乳の中心部分で極低頻度に、リング状の白濁を呈する中間の胚乳細胞層で高頻度に細胞質中のデンプン粒間に液胞様構造が観察される(図2G-I)。
  4. 通常の条件下の胚乳細胞では、デンプン集積に先立って先ず細胞拡大が起こる(図3A)。細胞拡大時には細胞壁合成と細胞内への吸水による液胞拡大が同時に起り,続いてデンプン合成が高まるにつれ、液胞を始めとする細胞小器官が占めていた細胞内空間が一転してデンプン粒に置き換わることで、整粒が形成される(図3B→C)。しかしながら、フェーン条件下では、胚乳が水ストレスに順化するため、浸透圧調節を誘導し、デンプン合成速度が低下する一方、胚乳細胞内の液胞様構造がデンプン粒に置き換わることなく、種子脱水まで残存することで、乳白粒が形成される(図3D→E)。
成果の活用面・留意点
  1. 本知見は、登熟期のフェーン耐性の品種育成のための基礎資料として活用できる。
  2. 本実験におけるフェーン処理は出穂後13日~15日にかけて48時間行い、リング状乳白粒の多発を誘導した。処理時期の出穂後日数やフェーンの強度に応じて、胚乳に残存する各細胞小器官の占有率が空間的に変化するため、横断面上の白濁の濃さ・位置・形状が変わる可能性がある。
  3. 表1の外観品質の結果は、「コシヒカリ」の穂の中位の弱勢穎果を対象に白未熟発生予測器を使って得られたものである。
研究内容 http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/karc/2018/karc18_s14.html
カテゴリ 乾燥 水稲 品種

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