味噌の味の指標となる単糖類

タイトル 味噌の味の指標となる単糖類
担当機関 (国)農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門
研究期間 2016~2020
研究担当者 楠本憲一
小川高宏
福崎英一郎
発行年度 2020
要約 味噌に含まれる単糖類やアミノ酸類などの水溶性低分子成分について、修飾後にガスクロマトグラフ/質量分析計による分析を行う。統計的手法との組み合わせにより、味噌の味の指標となる単糖類などの当該成分が明らかになる。
キーワード 味噌、メタボロミクス、単糖類、アミノ酸、ガスクロマトグラフ/質量分析計
背景・ねらい 味噌等の発酵食品醸造には技術者の長年にわたる経験と勘が必要であるが、和食文化に欠かせない発酵食品の多様性を維持するためには、工程管理の簡便化等に寄与する醸造技術の開発が必要である。そこで、従来の官能評価に加えて、味噌の味の指標となりえる成分を解明することを目指したものである。
以前に脂質関連成分であるアシルグリセロール類の味噌における成分比率を解明し、オレイン酸モノグリセロールが味噌のうま味及びこく味の指標になることを明らかにした。本成分は分析に高価な装置が必要なため、本研究では分析が容易な水溶性低分子成分と味噌の味との関係を解析する。
成果の内容・特徴 1.使用する味噌は、市販味噌14種類である。その内訳は、米味噌7種類、豆味噌2種類、麦味噌2種類、調合味噌3種類である。
2.味噌中の低分子水溶性成分の抽出は、Bligh & Dyer法により行う。分析は、ガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)を用いる。まず、味噌抽出物に水とクロロホルムを含む溶媒を添加して抽出処理を施し、水層のみを分取し、含まれる水溶性成分の修飾処理を行う。次に、GC/MSを用いて低分子水溶性分子種の包括的解析を行う。
3.主成分分析の結果、図1Aに示すとおり、二次元プロット上で味噌の種類によって、米味噌(グループI)、麦味噌(グループII)でグループ化すると、米味噌と麦味噌を混合した調合味噌(グループIII)はグループAとグループBの境界に位置付けられる。一方、豆味噌(グループIV)は上記3グループから離れて位置付けられ、各味噌の原料と発酵条件による成分の違いを反映した分布となり、味噌の種類によりプロットされる領域が概ね区別される。また、分析に用いた各種味噌の成分上の特徴として、図1Aの米味噌の位置に相当する図1Bのグルコースやイソマルトース(黄色円内)などの糖質が高い傾向にある。同様に麦味噌ではマンニトール(橙色円内)が他の味噌より含有量が高い傾向、豆味噌ではアミノ酸含有量(赤色円内)が高い傾向がある。
4.味噌の定量的官能評価データと成分量との統計的解析(OPLS)を行うと、うま味およびこく味に対する重要度が最も高い成分はガラクト-ス、次いでうま味ではアラビノース、こく味ではスレオニンである。また、塩味および塩味の後味に対する重要度が高い成分はグルコース、次いでグリセロールである。(図2)
5.このうちガラクトースは、味噌原料である大豆に含まれる(本藤、望月 1979)ため、原料中の大豆の割合が高くなると味噌中のガラクトースが増加する。また、大豆中の蛋白質が加水分解されてアミノ酸の生成量が増加し、うま味の増加に寄与する。次にグリセロールは、味噌の熟成に伴い、大豆に含まれるトリアシルグリセロールが麹菌由来リパーゼにより加水分解を受けて脂肪酸と共に生成される。他にも、発酵の進行に伴いリパーゼ反応と共に酵母が増殖し、酵母に由来するグリセロールが増加する。一方、?由来のグルコースが酵母により消費され、甘味が相対的に低下するため、原料由来食塩による塩味が強くなり、グルコースが塩味に関する負の指標となる。(図3)
成果の活用面・留意点 1.メタボロミクスを用いることにより、含有成分比率の違いにより味噌の種類及び品質、製造法を予測する手法の開発が可能になることが期待される。
2.本成果は味噌の品質に関わる成分の解明とその情報を用いた品質評価法の向上に寄与し、醸造技術者の労働環境の改善につながる。
3.本成果は使用した市販味噌14種類に基づく結果であり、日本各地で生産される淡色米味噌や豆味噌などの特産味噌を種類別に個別に評価するためには、別途、評価指標を明らかにする必要がある。
4.本研究において、うま味およびこく味に対する指標の候補としてガラクトースが抽出された。このことは、味噌の官能評価時には味噌そのものを口に含んで評価しているので、本来うま味の指標として知られるグルタミン酸ナトリウムの濃度が高すぎて、人間が感じることができる違いとして評価できなかったためと考えられる。味噌を水で懸濁して官能評価を行うと、今回とは別の味の指標が得られると考えられる。
5.ピログルタミン酸はグルタミン酸が非酵素的反応により環状化した化合物であり、呈味性を示さないことが知られ、ピログルタミン酸以外の、味噌の熟成により生成する糖質とアミノ酸の縮合物などが苦味や渋味に関与すると考えられる。
6.モノアシルグリセロールの一種、オレイン酸モノグリセロールは脂質成分を用いた味噌メタボローム解析によりうま味とこく味の重要度が高い成分である(2018年度研究成果情報)。モノアシルグリセロールは脂肪酸やグリセロール同様、味噌の熟成に伴って生成される成分であるが、このうちでオレイン酸モノアシルグリセロールが特にうま味とこく味と関連している理由については、今後の解明が待たれる。
図表1 244720-1.png
研究内容 https://www.naro.go.jp/project/results/4th_laboratory/nfri/2020/nfri20_s02.html
カテゴリ 大豆 評価法 メタボローム解析

こんにちは!お手伝いします。

メッセージを送信する

こんにちは!お手伝いします。

リサちゃんに問い合わせる