森林内での放射性セシウムの動きを予測する

• 担当機関: （国）森林総合研究所
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• 研究担当者: 橋本 昌司; 今村 直広; 金子 真司; 小松 雅史; 松浦 俊也; 仁科 一哉; 大橋 伸太
• 発行年度: 2020
• 要約: 東京電力福島第一原子力発電所の事故で降った放射性セシウムは、時間とともに森林の中で分布が変化します。私たちは最新の観測データとモデルから、森林内の放射性セシウム分布（今回はセシウム137を対象）の長期変化を予測しました。その結果、その大部分が土壌に存在し、長期的にも変化しないこと、スギの木材中の濃度は変化しないこと、コナラでは濃度の増加傾向が緩やかになること等、全体として森林内での放射性物質の動きは、すでに平衡状態に近づいていることがわかりました。森林内での放射性物質の長期変化が理解できるだけでなく、事故の影響を受けた森林を今後どのように管理をすればよいかを考えるうえで、重要な情報となります。
• 背景・ねらい: 東京電力福島第一原子力発電所の事故で森林に降った放射性セシウム（専門用語参照）は樹木の枝葉、樹皮、木材、地表部の落葉層、その下の鉱質土壌に分布しており、樹木から林床への落葉にともなう移動、根からの吸収などのため、森林での分布は時間とともに変化していきます。私たちは事故後2年の段階で開発した森林内の放射性物質の動態を予測するモデルを、その後の観測データを使って改良し、放射性セシウムについて事故後20年間の森林内における分布や、木材として重要なスギとコナラの木材中の濃度がどう変化するかを予測しました。
• 成果の内容・特徴: ■予測結果 ; 予測の結果、１）ほとんどの放射性セシウムが鉱質土壌に留まること、２）スギ木材中の放射性セシウム濃度は大きく変化しないこと（図1左）、コナラ木材中の放射性セシウム濃度の増加傾向が継続して緩やかになること（図1右）、３）放射性セシウムの森林内での循環量が急速に減少していること（図２）、が予測されました。また、これらのことから森林の中での放射性セシウムの動きが既に平衡状態に近づいていることが示唆されました。そして、これらの結果を地図上で把握しやすくするため、沈着量マップや植生マップとモデル予測結果を結合し、木材中の放射性セシウム濃度予測マップも作成しました（図３）。; ■意義 ; 今回の研究結果は、森林内で放射性セシウムがどこに分布するか、木材中の放射性セシウム濃度が今後どう推移するか、さらに、木材の放射性セシウム濃度が地域によってどの程度の値になるか、をこれまでの観測結果から長期予測したものです。この予測モデルは、どの地域でどのような林業が可能かなど、事故で影響を受けた森林の管理計画に利用できます。 事故で森林に降った放射性セシウムの中でも、今回対象としたセシウム137の半減期は約30年と長く、森林の管理を考える上でその影響は今後も長く続く重要な課題です。今回の研究から得られた森林内の放射性セシウムの将来予測は、事故直後から続けてきた観測とそのデータを活用したモデルの連携により可能になったものです。今後も信頼性の高い観測を継続するとともに、最新データを用いて、モデルを更新することが必要です。また他のモデルと比較しながら予測精度をより向上させることも重要です。; ■研究資金と課題 ; 本研究は、JSPS科研費 (JP16H04945)「森林放射性セシウム動態データベースの構築とマルチモデルによる将来予測」および森林総合研究所交付金プロジェクト「森林の放射性セシウム動態解明による将来予測マップの提示」の成果です。; ■文献; Hashimoto, S. et al. (2020) New predictions of 137Cs dynamics in forests after the Fukushima nuclear accident. Scientific Reports, 10, Article number 29. doi:10.1038/s41598-019-56800-5; ■専門用語; 放射性セシウム：放射線を放出するセシウム。福島事故では主にセシウム137と134が放出されました。今回の研究では半減期の長いセシウム137を対象としました。濃度指標：一般に放射性セシウム濃度はBq/kgで表現されますが、異なる汚染度の調査地点の結果を統一して扱うために、濃度を汚染度（総沈着量）で割ることで汚染度の違いを取り除き、正規化して「濃度指標」として利用しました。
• 研究内容: https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2020/documents/p10-11.pdf
• カテゴリ: ICT データベース