異なる成熟性質を示す2種類のトマトゲノム編集変異体

タイトル 異なる成熟性質を示す2種類のトマトゲノム編集変異体
担当機関 (国)農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門
研究期間 2014~2021
研究担当者 伊藤康博
発行年度 2021
要約 果実の成熟過程は品質・日持ち性に強く影響するため、その制御法が求められている。トマトの成熟制御を司る転写因子RINに対し、ゲノム編集法による変異創出で成熟パターンに変化を生ずることを利用して、成熟制御システム解明に貢献し、さらに高日持ち育種素材開発が可能となる。
キーワード トマト、果実、成熟、ゲノム編集、転写因子
背景・ねらい 果実・果菜類では成熟中の生理的変化が品質、日持ち性に深くかかわっている。品質保持期間を延長できれば流通性を向上させることが可能になり、世界的な食品ロスの問題を改善させるための有効な一手法となる。モデル生物であるトマトでは成熟の制御機構解明が比較的進んでおり、特に成熟が完全に抑制される自然突然変異ripening inhibitor (rin)(図1,2)を利用した研究は、成熟制御解明と高日持ち育種の両面から世界的に注目を集めてきた。一方で本研究担当者は、rin遺伝子座の野生型遺伝子RINの機能について、成熟開始に必須と信じられてきた従来の常識を大きく覆し、成熟はRIN非依存的に開始するという発見をしており、果実の成熟制御メカニズムの解明に大きく貢献するとともに、果実の高度利用に関する新たな方法論を展開しつつある。本研究ではRIN遺伝子のさらなる機能解明とその利用による成熟制御法開発を目的として、rin変異とは異なる複数種のゲノム編集変異体を育成し、それぞれの変異に特異的な成熟形質の活用法を検討する。
成果の内容・特徴 1. ゲノム編集によりRIN遺伝子に新たな変異を創出することで、成熟特性を変化させることができる。具体的には、図1に示す通り、従来のrin変異が成熟関連遺伝子の転写を抑制する機能を獲得しているのに対し、ゲノム編集によりRINが翻訳されなくなる変異(ノックアウト;KO)、RINの転写制御に関わる部分のみを取り除く変異(rinG2)を育成することにより、以下に示す通り成熟の進行パターンが変化する。
2. ノックアウト変異はrin変異と異なり、果実は若干リコピンを蓄積し、軟化は異常に進行する(図2、3、4)。このことはRINが専ら成熟の進行を促すだけでなく、軟化の進行をほどほどに抑制している機能を持つことを示す新たな発見である。また本変異は果実から果皮の剥離性を高める作用も持つ。
3. rinG2変異もリコピンの蓄積は低下するが、果実の軟化が抑制される。軟化の抑制度合いはrin変異ほどではないが、リコピン、β‐カロテンの蓄積がrin変異より高く、高日持ちトマトの育種素材として期待できる。栽培系統とrinG2変異体のF1系統は、リコピン蓄積が改善され、日持ちも栽培系統より優れる。
成果の活用面・留意点 1. rinG2変異体の高日持ち性を実用的なトマト品種に利用するためには、トマトらしく赤色を示すような高リコピン化が必要である。高リコピン性を与える自然突然変異はいくつか知られており、それらと組み合わせることで赤く高日持ちのトマトが得られる可能性がある。また栽培型とrinG2変異体を交配したF1系統についても、実用的な高日持ち品種育成の可能性がある。
2. ノックアウト変異体は果肉の細胞壁組織の分解が進み軟らかくなる。この特性を活用した新たな食品素材としての利用の可能性がある。また果皮の高剥離性を、通常の栽培品種に再現するための研究素材として活用が可能である。
図表1 248914-1.png
研究内容 https://www.naro.go.jp/project/results/5th_laboratory/nfri/2021/nfri21_s12.html
カテゴリ 育種 トマト 品質保持 品種

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