谷津の耕作放棄田における地下の酸素生成層の発見と窒素除去の持続性

タイトル 谷津の耕作放棄田における地下の酸素生成層の発見と窒素除去の持続性
担当機関 (国)農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境研究部門
研究期間 2014~2020
研究担当者 林暁嵐
江口定夫
前田滋哉
吉田貢士
黒田久雄
発行年度 2021
要約 谷津の通年湛水・裸地条件の耕作放棄田では、光合成微生物による酸素生成は地表だけでなく地下の酸素生成層(最大深さ4 mm以上)でも行われ、酸素は最大深さ40 mm以上まで侵入する。微生物の光合成は土壌炭素を増加させ、好気層直下の嫌気層における高い脱窒能を永続的に維持する。
キーワード 光合成微生物、脱窒、土壌炭素、通年湛水、裸地
背景・ねらい 谷津(幅100 m程度以内の狭幅枝流域に分布する谷底低地)は、台地由来の浅層地下水や湧水が涵養する湿性陸域環境の一つであり、主に水田として利用されてきた。近年は耕作放棄地が増えているが、谷津の土壌中に発達する嫌気的環境は、台地由来の地下水や湧水中に含まれる硝酸イオンを脱窒により除去する能力が高く、流域レベルでの水質管理上、重要な役割を果たしている。一方、水田のように浅い湛水条件下にある土壌表面には、太陽光が十分に届くため、微細藻類やシアノバクテリアといった光合成微生物によるコロニーが発達し、酸素を活発に生成する。これにより、湛水土壌の最表層には、溶存酸素を含む好気層が発達するが、この層の厚さ及びその変動の実態や窒素除去能に及ぼす影響については、現場条件下での知見が乏しい。
本研究では、過去20年間以上、通年湛水・裸地条件下にある谷津の耕作放棄田を対象に、好気層の実態を明らかにすると共に、酸素濃度や温度等の環境条件が窒素除去に及ぼす影響を検討する。
成果の内容・特徴 1. 霞ヶ浦流域上流部に位置する谷津の耕作放棄田に設置した調査圃場(図1)において、3年間、長期観測した結果(図2)によれば、窒素除去速度(図2b)は、平均0.091 g N/m2/d(332 kg N/ha/yr)であり、温度(図2c)と共に増加し、溶存酸素濃度(図2d)と共に減少する傾向がある。表面流出水中の溶存酸素濃度(図2d)は、季節によらず過飽和状態にあるが、温度が上昇する夏季は低下傾向にある。これは主に、土壌中の微生物による酸素消費速度の増大による。
2. 調査圃場における溶存酸素濃度の鉛直分布を測定した結果(図3)によれば、溶存酸素を含む好気層は高温時に浅く(図3a)、低温時に深くなる傾向がある(図3b)。湛水土壌中への溶存酸素の侵入深さは、最大40 mm以上に達し(図3b)、これまで他の湛水土壌・堆積物中で測定された値(最大深さ10 mm以内)を大きく上回る。
3. 湛水下の土壌最表層の溶存酸素濃度は、多くの場合、湛水中とほぼ同じで過飽和状態にあり、最大深さ4 mm以上までほぼ一定の溶存酸素濃度を示す(図3a、3b、3d)。これは、この層内では微生物の光合成により酸素が生成すること、また、光合成に必要な太陽光が地下まで届くことを示しており、地下における酸素生成層の存在を初めて示す実証データである。酸素生成層は、温度が高いほど浅くなる(図3a、3b)が、ほぼ同じ温度でも溶存酸素濃度分布が大きく異なる場合があり(図3c、3d)、これは、微細藻類の生育ステージ等の影響が大きいためと考えられる。
4. 一般に、土壌の裸地管理は、土壌炭素含量の低下に繋がる。しかし、谷津の通年湛水土壌の裸地管理は、光合成微生物に必要な太陽光を十分に供給し、水温・地温を高く保つことで脱窒活性を高めるだけでなく、微生物による光合成の活性化を通じて、有機態炭素を供給し、長期間にわたり土壌炭素含量を高く保つ(表1)。微生物による光合成は、脱窒に必要な易分解性有機態炭素を供給し、谷津における高い窒素除去能の持続性に繋がると考えられる。
成果の活用面・留意点 1. 本成果は、流域レベルでの水質管理の観点から、谷津の耕作放棄田の管理・活用方法を検討する上で、また、水田等の湛水土壌中における温室効果ガスの生成・消失、重金属・農薬の形態変化等、様々な酸化還元反応のメカニズム解明のための基礎的知見として、活用できる。
2. 谷津の耕作放棄田は、通常、二次的な自然植生が旺盛に繁茂するため、微生物の光合成に必要な太陽光は地表面まで届きにくく、脱窒速度を高める水温・地温も上昇しにくい。自然植生の定期的・部分的な伐採は、湛水土壌面に太陽光を届け、窒素除去能の増大に繋がる可能性がある。
図表1 249087-1.png
研究内容 https://www.naro.go.jp/project/results/5th_laboratory/niaes/2021/niaes21_s14.html
カテゴリ 水田 農薬

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